2018年10月3日水曜日

[221] Nils-Aslak Valkeapää & Esa Kotilainen - Eanan, Eallima Eadni


Label: DAT
Catalog#: DAT CD-5
Format: CD, Album
Country: Norway
Released: 1989
DISCOGS

1  Eanan, Eallima Eadni  30:02

2  Beaivái, Beaivvi Guvlui  31:37

フィンランドの電子音楽〜アンビエント史を振り返る上で最も重要な音楽家のひとりであり、現在も自国の環境にインスパイアされた作品を発表し続けている鬼才作曲家・鍵盤奏者Esa Kotilainen(エサ・コティライネン)と、2001年に死去したサーミの英雄的詩人Nils-Aslak Valkeapää(ニルス=アスラク・ヴァルケアパー)の共作アルバム。古くは1860年代から1930年代にかけて撮影されたサーミの歴史的資料を含むヴァルケアパーの詩集「Beaivi, Áhcážan」(91年北欧理事会文学賞受賞:タイトルは「太陽、父」の意)のための音楽として、詩集発刊の翌年、89年にサーミ芸術専門の出版社DATから発表されました。

サーミとは、スカンジナビア半島北部からコラ半島に広がるラップランド地方で、ツンドラの大地を季節ごとに移動し、トナカイを追って暮らしてきた先住民族。その土地の精霊・シャーマニズム信仰を背景に、自然界と交信するための道具・方法として古くから伝承されてきたのが、この作品の中でヴァルケアパーが歌う「ヨイク」。現代まで残る伝統歌謡としてはヨーロッパ最古とも言われるヨイクですが、キリスト教の介入によりサーミ古来の信仰が弾圧された時期、ヨイクを公の場で歌うことは処罰の対象とされていたため、60年代までは衰退の一途を辿ったそうです。しかし、60年代以降、サーミ文化復興運動の高まりとともにヨイクは再興。ヴァルケアパーがクラシックの作曲家らと共作した68年のデビュー作「Joikuja」が、伝統と現代を融合した新しいヨイクの指針となり、70年代以降も前衛ジャズのサックス奏者Seppo Paakkunainen(セッポ・パーックナイネン)やコティライネンらの協力を得て、さらに斬新なアプローチによるレコーディング作品を発表しました。94年にノルウェーで開催されたリレハンメル冬季オリンピック(オリンピック運動における環境保護・自然との共生の重要性を呼びかけた大会)の開会式で彼が披露したヨイクの歌声は、多くのサーミ人に勇気と希望を与えるものであったといいます。
本作に収録された2曲「地球、生命の母」「太陽へ、太陽の方へ」は、どちらも30分を超える長大曲。海鳥の鳴き声、波の音、コティライネンが操るシンセサイザーの温かみのあるアンビエント・サウンドと、ヴァルケアパーの深奥なる歌声。録音が行われたのはヘルシンキのスタジオで、フィールドレコーディング音源は海のイメージを誘起させるものとして導入されていますが、ヨイクが森羅万象の生命との仲立ち役であると考えるのなら、海に留まらずあらゆる自然環境・霊性と目に見えない次元で共演・交感した作品と捉えることもできます。人間と大地、大地と宇宙を等しく結ぶ、サーミ固有の環境音楽、もしくは高次フォークロア音楽と呼びうる傑作です。

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Nils-Aslak Valkeapää, Johan Anders Bær, Seppo Paakkunainen & Esa Kotilainen
Dálveleaikkat - Wintergames (DAT, 1994)

 Esa Kotilainen - Jäänalainen II (2018)