2026年3月29日日曜日

Blank & Jones


日本海側では春になると海が穏やかになるので、自然と海辺に向かうことが多くなります。昨シーズン、青物フラット狙いで子供と海に出向く際に、片耳でよく流していたのがこのプレイリストでした。ドイツのエレクトロニック・デュオBlank & Jonesの楽曲から選曲したもので、とはいえ凝った内容ではなく、彼らの代表的なコンピレーション・シリーズ「Relax」と「Milchbar Seaside Season」の冒頭の静かなトラックを古い順に並べたものです。チルアウトといえばサンセットのイメージが強いですが、彼らの音楽は日の出前のブルーアワーがよく似合います。
3曲目「Roots / Nothing Can Come Between Us」で聴こえてくるヴォーカルは、バレアリック文脈で語られることの多いイタリアのシンガーソングライターMike Francis(マイク・フランシス)。この曲が収録された「Relax Edition 3」では、アルバム全編で彼の歌声がフィーチャーされています。イタロディスコにブルーアイドソウル的な洗練を加えた都会的なサウンドで80年代に一躍ポップスターとして名を馳せ、後年はMystic Diversionsでの活動など一歩身を引いた裏方プロデュースに専念していたフランシス。そんな彼を再発見し、円熟したソロシンガーとして再び表舞台へ引き戻したのは、このBlank & Jonesの2人だったそうです。


Blank & Jones ft. Mike Francis - Relax Edition 3 (2007)

Mike Francis - Features (1985)

2026年3月27日金曜日

Nick Sheppard & Marigold Sun - Pratunam


Label: Hush Hush Records
Catalog#: HH145
Format: Digital, Album
Country: US
Released: 2022

1 Blues For Alfie 4:06
2 Aeroplane 5:17
3 Kata Noi 2:41
4 Honeymoon 2:57
5 Pratunam 3:34
6 Dusk 2:06

イギリスのパンク黎明期を支えた伝説的ギタリストであり、現在は西オーストラリア州パースを拠点にDJとしても活動するNick Sheppard(ニック・シェパード)。そして、ニューヨークを拠点とするシンガポール系オーストラリア人プロデューサーMarigold SunことEric Li Harrison(エリック・リー・ハリソン)。一見意外な組み合わせにも感じられる、世代もバックグラウンドも異なる両者によるコラボレーション。パンデミック直前に2人が共に旅したタイ・バンコクでの記憶を起点に、隔離期間中のリモート・セッションを経て完成させたもの。長年ロック畑を歩んできたシェパードですが、本作ではVini ReillyやSteve Hiettを彷彿とさせる抑制の効いたフレージングに徹していて、涼やかで淡い影を帯びたギターワークとドリーミーなバレアリック・ビートが溶け合い、遠い夏の情景を思い起こさせるパーソナルで美しい音像を描き出しています。タイトルの「プラトゥーナム」とは、彼らが訪れたバンコクの卸売街のこと。色鮮やかな看板、路地に積み上げられた模造ブランド品、屋台から漂うエスニックな香り。さながらブレードランナーの舞台のような混沌とした生活感と非現実感が交錯するアジアの喧騒が、この旅のアルバムの重要なモチーフになっているようです。

「午前3時、中国の薬剤師の亡霊が中世の乳鉢で骨とハーブを砕いている。彼はそれらを古い新聞紙に包む。昨日のニュースに包まれた昨日の治療薬。銀色のスパンコールが散りばめられたポケットチーフが、美しいバーの女の子たちを包み、覆い隠す。多すぎず、少なすぎず。屋台の食べ物の香りに圧倒され、偽ブランドに酔いしれる。私は目を向けるが決められない。特別価格を提示される。そして私は想いを巡らせる。剥き出しの電球の下で空を照らす。ブレードランナーのスクリーンの下に高く吊るされた電球。そして穏やかな雨、穏やかな雨がプラトゥーナムに降る。多すぎず、少なすぎず。多すぎず、少なすぎず。」- ニック・シェパード

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2026年3月24日火曜日

David Lee - Freedom From Stress







昨年NumeroからリリースされたParadise Is A Frequency監修によるコンピレーション「The Style Of Life」。その冒頭に収録されていたのが、David Leeなる人物による「Freedom From Stress(ストレスからの解放)」。かつてカリフォルニア州サンタモニカに存在したレーベルMindstar Tapesのカセット音源で、可聴域外の音量や速度でポジティブなメッセージを忍ばせ、繰り返し聴くことで潜在意識に働きかけるという、80年代に流行したサブリミナル効果を謳うリラクゼーション・シリーズの一作だったようです。クレジットには作曲/プロデュースとしてBrad Marlinの名が記されていることから、Lee自身は音楽家というより、春山茂雄や渡辺茂夫のような健康法や心理学的アプローチを提唱する監修者的な立場だったのかもしれません。
「The Style Of Life」には、他にも80年代から2000年代にかけて制作された知られざるニューエイジ/スムースジャズ(一部フェイクを含む)が収録され、いずれもテレビの深夜放送とか自己啓発教材ビデオで流れていそうなデジタルでイージーな雰囲気の楽曲ばかり。本来の目的や用途から機能的音楽を切り離し、未知なる感傷をともなう純粋な聴取対象として捉え直すレアグルーヴ的発掘が、本当にニッチな領域まで達しているのだなと感じます。アメリカという巨大なマーケットの底知れなさを実感させられる素晴らしいコンパイルです。


va The Style of Life (Numero Group, 2025)
compiled by Mario Martinez & Scott Trausch
cover painting by Stan Solomon

2026年3月22日日曜日

Peter Arnesen - Haunts of Ancient Peace


Label: Lotus Records
Catalog#: LR 8903
Format: CD, Album
Country: Austria
Released: 1989

1 A Ruined Abbey 7:24
2 An Old-Fashioned Cottage Garden 9:10
3 A Quiet Reach On The River 6:23
4 Dismantled Towers 9:08
5 An Italian Garden 5:43
6 A Wood By The River 8:04
7 Haunts Of Ancient Peace 8:04
8 Drying Sheaves 6:02

1970年代よりイアン・ハンターやデヴィッド・ボウイのツアーサポート、プログレッシブ・ロックなど様々なバンドのキーボード奏者として活動してきたピーター・アーネセン。ロック最前線でのキャリアを経てイギリスから母国オーストリアに戻り、より自由な創作活動へと転向したアーネセンが、地元のニューエイジ系レーベルから発表した一人多重録音によるソロ作品。本作の着想源となっているのは、桂冠詩人アルフレッド・オースティンの旅行記「Haunts Of Ancient Peace」(1902年)と、そこに添えられたアグネス・ロックの水彩画、そして彼自身の個人的な生活経験。古き良き庭園の草花、役目を終えた歴史的建築物、川沿いの自然や田園風景といった情景が、透明感あふれるデジタル・シンセサイザーやピアノ、とりどりの打楽器によって表現されています。遠い記憶に想いを馳せたり、古い切手帖を眺めたり。または小さな箱庭を慈しむような、穏やかで優しい眼差しを感じさせる一枚です。

Peter Arnesen has been active since the 1970s as a keyboardist for various bands, including touring support for Ian Hunter and David Bowie, as well as progressive rock groups. After a career at the forefront of rock, Arnesen returned from the UK to his native Austria and embraced a broader, genre-defying approach to composition. This solo album, featuring his own multi-tracked recordings, was released on a local New Age label. The inspiration for this work comes from Poet Laureate Alfred Austin’s travelogue Haunts of Ancient Peace (1902) and its accompanying watercolors by Agnes Locke, along with his own personal life experiences. Scenes such as the flora of old-fashioned gardens, historic buildings that have served their purpose, riverside nature, and rural landscapes are expressed through crystal-clear digital synthesizers, piano, and various percussion. It is an album that evokes a gentle, tender perspective—like reminiscing over distant memories, leafing through an old stamp album, or tending to a miniature garden.

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2026年3月20日金曜日

Subtle - A Happy Spleen


Label: Farlove
Catalog#: SPCDF-002
Format: CD, Album
Country: Japan
Released: 2001

1 Spring Sponsor 5:00
2 CIRCletion 4:06
3 Never Enough 2:27
4 Opportunity 3:23
5 Tower Of Tale 5:11
6 Happy Life 2:48
7 Tasty Life 6:14
8 Kettle And Pillow 4:23
9 The Encounter 3:39
10 Minors 3:12

仙台を拠点とするデュオ・プロジェクトSubtle(サトル)が、青山スパイラルのレーベルから発表した初のフルアルバム。メンバーは作曲家/マルチ奏者の瀬川雄太と、プログラミング/編集担当の中谷俊介。
瀬川氏による生楽器や鍵盤、プログラミングを主体とする抑制の効いたバンドアンサンブルをもとに、中谷氏がポストプロダクション的なエディットを加えて再構築したインストゥルメンタル・サウンド。当時の音響派の過度な構築性と比べると、本作の感性はよりおおらかで、メロディや情緒性、流動的な展開に比重が置かれています。ブラジル/イベリア系の浮遊感のあるギターのコードワークを基調としながら、端正なアンサンブル構造をあえて崩したり、意外性のある単発的なモチーフやノイズが予期せぬ場所に配置されたり。そうしたアイデアの断片がドライなプロダクションの中で漂泊的に現れては消えていきます。Gastr del SolやTortoiseといった当時のシカゴ勢への敬意を滲ませつつ、その影響を意図的に避けて独自の語法を模索するような試行錯誤が端々でうかがえ、結果として、どの方向にも振り切れていない絶妙なバランスが本作のオリジナリティになっているようにも感じます。エレクトロニックでありながら緻密なところはアナログという、冷たさと暖かさが同居する有機的な手触りは、ひょっとして音響派の文脈よりもInterior(s)のような中間音楽のリスニング感に近いのかもしれません。あらためて良いアルバムだなと思います。

This is the debut full-length album by the Sendai-based project Subtle, released on Spiral Records' imprint. The duo consists of composer/multi-instrumentalist Yuta Segawa and programmer/editor Shunsuke Nakatani.
The instrumental sound is rooted in a restrained band ensemble—primarily Segawa's live instrumentation and programming—which Nakatani then reconstructs through post-production editing. Compared to the highly structural nature often found in the experimental/post-rock scenes of that era, this work leans more toward melody, emotional resonance, and fluid progression. The string work is grounded in Brazilian and Iberian-influenced chords, carrying a distinct sense of buoyancy. These fragments of ideas—the deliberate disruption of neat ensemble structures or the addition of sudden, stray motifs and noise—drift and dissolve within a dry production.
While hinting at a deep respect for the Chicago scene of the time (Gastr del Sol, Tortoise), one can sense a deliberate effort to bypass those influences in search of a personal vocabulary. This process of trial and error results in a peculiar, unclassifiable balance that defines the album's originality. Its organic texture—electronic yet meticulously analog, where coldness and warmth coexist—feels perhaps closer listening experience of Interior(s) and the "Medium Music" aesthetic than to the context of the post-rock movement. It remains a truly great album.

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2026年3月18日水曜日

Fra Ola Narr - Fra Ola Narr


Label: Sidespor
Catalog#: SCD 9002
Format: CD, Album
Country: Norway
Released: 1988

1 Gilje 3:52
2 Bergtatt 4:00
3 Røskatten 4:06
4 Ola Narr 4:03
5 Tawinul 4:00
6 Kvarv 5:06
7 Indris 3:04
8 Gand 4:00
9 Blå Folk 3:30
10 Banzul 3:44
11 Sinkadus 3:06
12 Hogg 3:50
13 Tango Fot To 3:50

「楽器の魔術師」と称されるオスロ出身の作曲家/フルート奏者Svein Hansen(スヴェイン・ハンセン)を中心に、ノルウェーにおけるラテン音楽の探究者らによって結成されたプロジェクトFra Ola Narr(フラ・オラ・ナール)のデビューアルバム。
祝祭の場で踊られるスクエア・ダンス「フィーレトゥル」。山間部の牛呼び歌「クロック」。イギリスから伝来した三拍子舞曲「エングリス」。スルナダール地方の素朴な子守唄「ボーンスッル」。軽快で弾むようなポルカの亜種「ポルケット」。───ノルウェー各地に根付く土着の伝統形式に、ハンセンが長年培ってきた中南米のリズムを高度に結びつけた新感覚のフォーク・フュージョン。北欧とラテンという対極的な異文化混交を試みた野心的作品でありながら、音楽的な難解さは感じられず。随所に散りばめられた知的なユーモアと、空き瓶や椅子の背もたれまでも取り入れた遊び心あふれるアンサンブルが、耳新しくも懐かしい空想民族的な味わいを生み出しています。
プロジェクト名の「フラ・オラ・ナール」とは、オスロに実在する丘の名前に由来。19世紀に農村から大都市クリスチャニア(現オスロ)へ移住し、外務省の給仕などを務めながら、その派手な服装や振る舞いから「道化師オラ(オラ・ナール)」の愛称で親しまれたOle Arnesen(オーレ・アーネセン)なる伝説的人物の逸話に因むものだそうです。以下は、ブックレットに寄せられた作家Arild Nyquist(アリール・ニクヴィスト)による解説の抜粋です。

「今日、ほとんどの人は旅人です。私たちは美しい曲線や細い経度をなぞって地球を横断し、吸収し、受け入れ、耳を傾け、観察します。未知のものが依然として未知であり続け、言葉や動きが理解できないとき、私たちは彼らが与えてくれる音楽に耳を傾けます。音楽はおそらく、あらゆる言語の中で最も普遍的なものです。このレコードで、私たちはノルウェーとラテンアメリカのフォークミュージックの融合に出会います。特に後者は、さらに多くの文化が交差する地点から生まれてきたものです。そしてそのような「交差点」こそが、オーレ・アーネセンが帽子を脱ぎ、彼の都会の分身であるオラ・ナールに挨拶を交わす場所なのです。」 - アリール・ニクヴィスト

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2026年3月16日月曜日

Arto Lindsay - Ecomixes


Label: Avex Trax
Catalog#: AVCD-11833
Format: CD, Album
Country: Japan
Released: 2000

1 Prefeelings (Calm Remix) 8:56
2 The Prize (Yukihiro Fukutomi Remix) 5:52
3 Pode Ficar (Da Lata Cucumber Mix) 4:05
4 Modos (Child's View Remix) 8:19
5 Ondina (Chari Chari Remix) 5:49
6 Counting The Roses (Self-Remix) 6:32
7 Tone (Hair Stylistics Remix) 5:14
8 Pode Ficar (Live) 4:16
9 Ex-Preguiça (Live) 2:58
10 Interior Life (Live) 3:36
11 Unsure (Live) 5:18

大胆に再構築すると原曲の粋が際立ち、逆に忠実だとかえって手跡が感じられたり、リミックスという表現は絶妙なバランスで成り立っているものだと感じます。本作は鬼才Arto Lindsay(アート・リンゼイ)が1999年に発表した「Prize」の日本企画リミックスアルバム。Calm、竹村延和、Chari Chariら先達各々の感性が冴え渡るなかで、リンゼイ自身の声や存在感は瑞々しく自由で普遍的。原曲のたゆたうようなアヴァンな甘美さに無国籍でジャンルレスなトリップ感が加わり、耳と脳に心地の良い仕上がりです。映画監督/美術キュレーターDiego Cortez(ディエゴ・コルテス)による海の漂流物をモチーフにしたCD/12インチの一連のアートワークも秀逸。

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2026年3月13日金曜日

志間貴司 - One Day In Summer


Label: Woorell Records
Catalog#: LU25-5029
Format: Vinyl, LP, Album
Country: Japan
Released: 1984

A1 Wilful Lady 4:09
A2 One Day In Summer 6:14
A3 Afternoon Dreamin' 9:40
B1 Harbour Line 3:55
B2 Glory 8:49
B3 Illumination 5:01

ハワイ直輸入の日焼け用オイルブランド「サン・タン・クラブ」のプロモーションを兼ねた企画レコード。日焼けの度合いを「ライト」「ダーク」「プロフェッショナル」「ウルトラ」の4段階に分け、それぞれにフィットする音楽を収録した全4タイトルのうち、本作は軽い日焼け(ライト・タンニング)を楽しみたい人向けに制作された一枚。作者は、短すぎるTシャツを着たサーファーのジャケットで知られるシティポップ・グループPIPERのキーボーディスト志間貴司。和製フュージョン〜ニューエイジ調の楽曲を波音のSEが繋ぐというATLAS「BREEZE」を彷彿とさせるシームレスな構成で、バブル景気に向かう直前の日本人が抱いていた爽やかなビーチリゾートのイメージが描かれています。

「小麦色の肌は夏のステイタス。サンサンと降り注ぐ太陽の下、ヘルシーでリッチな日焼けタイムはサマーリゾートのもっともベイシックな過ごし方。一冊のペーパーバックと軽いドリンク、そしてお気に入りのミュージックをたずさえてゴキゲンなサンタン・タイムを楽しみましょう。サン・タン・クラブ・シリーズは日焼けタイムにフィットするGood Musicのベスト・パッケージ。最も効果的で上手な日焼けのメソッドであるステップ・タン(段階的日焼け)を音楽の部分にも応用したものです。軽い日焼けからプロ級の日焼けまで、4段階の日焼けにピッタリのアーティストとナンバーをセレクトしてあります。ですから、あなたがしたい日焼けのステップに応じて、サンタン・オイルを使いわける感覚で音楽もチョイスして下さい。きっと、あなたの気分にピッタリの素敵なサンタン・タイムが過ごせるはずですよ。」 - インサートより

This is a promotional tie-in record for "Sun Tan Club," a tanning oil brand imported from Hawaii. It is one of four releases in a series that categorizes tanning levels into four stages—Light, Dark, Professional, and Ultra—with music tailored to each. This specific volume was produced for those enjoying a "Light Tan."
The music is composed by Takashi Shima, keyboardist for the city pop group PIPER (famous for their iconic album art featuring surfers in cropped T-shirts). Much like ATLAS’s BREEZE, the album features a seamless flow where Japanese fusion and New Age tracks are linked by the ambient sounds of crashing waves. It beautifully captures the breezy beach resort imagery cherished in Japan just before the onset of the bubble economy.

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2026年3月11日水曜日

23 Degrees - ...An Endless Searching For Substance


Label: Silent
Catalog#: SR9467
Format: CD, Album
Country: US
Released: 1994

1 The Start Of An Unfinished Chain Reaction 9:48
2 The End Of New Beginnings 3:08
3 Radio Free Ian (Negative Ion Version) 3:59
4 Nagshbandi Escape Hatch 6:35
5 Dissolving Essence Of Dub (Last Laboratory Edit) 8:31
6 The Invisible World (Let Me See) 4:42
7 The Other Side (Chant Down Babylon Edit) 11:57
8 Floating 5:22
9 A Love You Never Knew 7:39
10 Dissolver Of Sugar (Intro) 5:54

ティモシー・ヘンドリックス率いるアンビエント・ダブ・プロジェクト23 Degreesが、サンフランシスコの名門Silent Recordsから発表したデビューアルバム。メンバーは中心人物のヘンドリックス(プログラミング/サンプラー)のほか、バーサ・マトゥス(キーボード/ベース)、ロイ・ロビンソン(コンガ/ジェンベ)、ヤーン・ネフ(サンプラー)、スティーヴン・ヒッチコック(ディジュリドゥ)。タイトルは「本質への終わりなき探求」の意。 
かつてのノイズ/インダストリアル路線から、より美しく永劫なるものへと志向を変え、チルアウトやサイケデリックの潮流を取り込みながら、デジタル技術と神秘主義を融合させる「テクノ・シャーマニズム」の実践拠点となっていたSilent。音を「意識を別次元へ運ぶ触媒」と考える同レーベルの思想を体現するように、本作もアンビエントの手法を内面世界の探究というテーマへと結びつけています。静かな意識の離陸から始まり、自己からの脱却、宇宙的な広がりを経て全体性へと帰一する瞑想的なプロセス。民族楽器によるオーガニックでトライバルなリズムとダブ的な空間処理、さらにラスタファリやイスラム神秘主義といった宗教的モチーフがモザイク状に織り込まれ、香木の煙が立ち込める寺院に迷い込んだかのような濃密な異郷ムードを醸し出しています。アンビエントが精神世界の象徴であった時代の空気を色濃く反映しつつ、コンセプチュアルな構成でありながら曲毎のアプローチが多彩で、純粋なリスニング・ミュージックとしても充実した一作です。 
23 Degrees名義でリリースされたアルバムは、本作と翌年の「Born Of Earth's Torments」のみ。Silentのアーカイブサイトによると、その後ヘンドリックスはレーベル所属のアラウラと結婚してハワイへ移住。近年は茨城県日立市を拠点を移し、自作スタジオでの音楽制作とサーフィンを中心としたクリエイティブな生活を送っているようです。

The debut album from 23 Degrees, an ambient dub project led by Timothy Hendricks, released by the renowned San Francisco label Silent Records. In addition to Hendricks (programming/sampler), the core member, the lineup includes Bertha Matus (keyboards/bass), Roy Robinson (conga/djembe), Jahn Neff (sampler), and Steven Hitchcock (didgeridoo).
Silent Records served as a sanctuary for "techno-shamanism"—a practice merging digital technology with mysticism. Shifting from its noise and industrial roots toward a more eternal aesthetic, the label embraced chill-out and psychedelic trends. Embodying Silent’s philosophy of sound as a "catalyst to transport consciousness to another dimension," this album anchors ambient techniques in the exploration of the inner self. It maps a meditative journey: from the quiet liftoff of consciousness through self-transcendence and cosmic expansion, finally returning to a state of wholeness.
Tribal rhythms played on traditional instruments meet dub-inflected spatial processing. Religious motifs—from Rastafarianism to Islamic Sufism—are woven into a mosaic, evoking the dense, otherworldly atmosphere of a temple thick with incense. While it deeply captures the era’s spirit where ambient music symbolized the spiritual realm, the album’s diverse sonic approaches make it a compelling and sophisticated listen in its own right.
Following the release of two albums and several remixes and singles on Silent Records, the label eventually closed. Hendricks later married fellow artist Alaura and moved to Hawaii. He has since relocated to Hitachi, Ibaraki Prefecture, where he continues his creative pursuits through music production in his private studio and surfing.

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2026年3月9日月曜日

Netherworld - Mørketid


Label: Glacial Movements Records
Catalog#: GM002
Format: CD, Album
Country: Italy
Released: 2007

1 Dreaming Arctic Expanses 9:16
2 New Horizons 9:24
3 Mørketid 12:33
4 Jøkul 7:28
5 North Pole 7:58
6 Virgin Lands 12:47

極北の自然現象や孤絶した世界観をコンセプトに掲げるローマのアンビエント・レーベルGlacial Movements。その主宰者であるアレッサンドロ・テデスキが、ソロプロジェクトNetherworld名義で発表したレーベル初となるフルレングス作品。タイトルはノルウェー語で「極夜(Polar Night)」。極地で太陽が地平線上に昇らず、一日中夜が続く季節を意味しています。
氷塊が軋む音、吹雪の風鳴り、オーロラの微弱な電磁ノイズ。北極圏で実際に採取されたフィールドレコーディング音源と電子音、ドキュメンタリー音声の断片などで重層的に構築された、気状化した静謐さが広がるサウンドスケープ。ドローンの雲霧の中をゆっくりと浮き沈みする長周期のパターンと、知覚できないほどのグリッド構造。地の底から響くような超低域の脈動は、人智を超えた生命秩序の蠢きとして作用し、自律音響世界における状況=アンビエンスの迫真性を際立たせています。孤独でありながらダークに陥らず。低明度の美しい光の存在を感じさせる秀作です。

Glacial Movements is a Rome-based ambient label dedicated to the concepts of Arctic natural phenomena and isolated worldviews. This release marks the first full-length album on the label by its founder, Alessandro Tedeschi, under his solo moniker Netherworld. The title, Norwegian for "Polar Night," refers to the season in polar regions where the sun never rises above the horizon, leaving the landscape in perpetual darkness.
The soundscape is a multi-layered construction of ethereal stillness, woven from authentic field recordings captured in the Arctic Circle, electronic tones, and documentary fragments—the groaning of ice floes, the howl of blizzards, and the faint electromagnetic hum of the aurora borealis. Long-period patterns drift slowly through clouds of drone, anchored by an almost imperceptible grid. Pulsations in the sub-bass range, resonating as if from the depths of the earth, evoke the movements of a life force beyond human comprehension, heightening the immersive realism of this autonomous sonic world. Solitary yet never veering into darkness, this is a masterful work that reveals the presence of a beautiful, low-luminosity light.

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