2018年12月17日月曜日

[232] Max Folmer ‎- Omega


Label: Oreade Music

Catalog#: OR 2804
Format: CD, Album
Country: Netherlands
Released: 1989
DISCOGS

1  Vibrations (Part One)  20:40

2  Vibrations (Part Two)  20:41

特定の場所・空間に添えるための消極的聴取可能な音楽とその聴取方法として命名された「環境音楽」に対し、「ニューエイジ音楽」は消費文化や効率主義に抗おうとする都市生活者の内面に潤いと平静をもたらす穏やかなインストゥルメンタル・サウンド全般を指すマーケット用語でした。つまり、限定された様式を指すものでなく、ライト・クラシック調から民族調、ジャズ・フュージョン、シンセサイザーを使ったミニマル音楽まで、さまざまなタイプがあり、それらが大凡ファッション感覚で聴かれていたのだと思います。観葉植物や壁紙のように作用する環境音楽は、そのあり方から基本的に静かな作風のものが多かったために、元々のコンセプトだけでなく様式や演奏方法の典型(例えばオスティナート、ドローン)を包含し、思索や瞑想を誘起する音楽として、ニューエイジ音楽の様式の一つに取り入れられたと考えるなら、環境音楽もまたニューエイジの精神性やライフスタイルに近いニュアンスを帯びるようになったと想像できます。例えば「アンビエントな生活」という言葉は、特におかしな表現だと感じることなく、自身の内面や社会を静観する質実な暮らし振りを想像させるのではないでしょうか。

とはいえ、耳ざわりのよいニューエイジ音楽は、それ自体盛んに消費される結果になりました。作家性を抑えた控えめな音楽の作曲方法は、その反面、多くの似たような作品を生んだのでしょうか。または、その音楽のもつ、生活にそっと寄り添う存在の軽さが、音楽に対する「軽視」に繋がったと見るべきでしょうか。そのような静的で療養性をもった音楽は、後にヒーリング・ミュージックとして売られるようになり、ポップスを好む人々の耳にも丁度よく馴染むポップ系ヒーリング作品の需要は、「イマージュ」シリーズのような市場企画で応えられるようになった──と、ここまでくると「環境」から遠く拙紙の範疇ではなくなるような気がしますが、環境音楽と言うときにこういった「癒し」のイメージが離れないのも事実です。
この青緑色のうず潮のジャケットは、ヨーロッパでも指折りのニューエイジ音楽レーベルOreade Musicからの一作。やわらかなシンセサイザーの上をゆっくり歩くようなテンポの電子ピアノが重なる音楽は、ミューザック社がHarold Budd(ハロルド・バッド)を模したような印象もあり、時々鳥の鳴き声が小さく聞こえます。作者のMax Folmer(マックス・フォルマー)はユトレヒト大学で工業デザインを学び、美術学校での講師やウェブ・デザイナーを務める傍ら、東洋の叡智、自己の探求/解放といった内面世界や自然をテーマにした20以上の音楽作品を発表。日本での輸入販売元であるプレム・プロモーションは、1989年から同時代の優れた海外レーベルからリラクセーション向けの音楽を流通させており、本作「オメガ」の国内盤はその運営最初期のもの。当時のカタログにはAnugama(アヌガマ)やFlemming Petersen(フレミング・ピーターセン)、Frank Lorentzen(フランク・ローレンツェン)など、今ではニューエイジ音楽の古典とされる作品も多くあります。 - 「水と循環の音楽」冊子より一部改稿

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