2018年3月22日木曜日
[189] Warren Sampson - Traveller
Label: Love All Day
Catalog#: LAD 016
Format: Vinyl, LP, Album, Reissue
Country: US
Released: 2018 (1987)
preorder
A1 La Bella Donna 3:53
A2 Travellers On A Mountain Road 5:53
A3 On The Reef 5:12
A4 Sweetly 4:06
A5 Miss Jessel 3:59
B1 Drifts 5:06
B2 Embankment 4:06
B3 The Coming Darkness 3:42
B4 City Layers 4:51
B5 The Natural Skater 5:44
ミネソタ生まれの大学生Warren Sampson(ウォーレン・サンプソン)が、ロンドン留学中に出会った中国の水墨画と、ブライアン・イーノ、ジョン・ハッセルの初期作に感化を受け、1970年代後半から1980年代半ばにかけて録音。87年に自主レーベルからリリースしたという知る人ぞ知るフォーキー・アンビエント作品を、シカゴのレーベルLove All Dayが新装リマスター再発。薄暗く霞んだ色合いのエレクトロニクスに、中西部出身者らしいカントリー〜ブルース・マナーのギターを織り交ぜ、隅々までパーソナルな世界観を投影したメンタルスケッチ的アルバム。ケリー・ライマーや、Krankyなどのポストロック・サウンドが引き合いに出されていますが、その両者の間に介在するミッシング・リンクともいうべき音楽性を感じさせます。レーベルの特設ページでは、サンプソン本人がこの作品の背景を語った人間味溢れるテキストを公開(以下はその粗訳です)。リリース予定日は4月21日。
「Traveller」の音楽は、1980年頃に見た中国の水墨画にインスパイアされました。今それをオンラインで探してみたところ、どうやら私はタイトルを間違えていて、私が思っていたものはギャラリーには展示されていたかったようです。まあともかく、何かを完全に間違えてコピーしまったことでどれくらい新しいアートが創られてきたでしょうか。
1980年、私は科学史・科学哲学を学ぶためにロンドンで1年間を過ごす機会に恵まれました。私はひどい学生でしたが、私の人間性の大部分をその1年間から得ました。私は、キャッツのオリジナルキャストによる2回目の夜公演を観ました。そこでセゴビアの音楽を聴き、ヌレエフが踊るのを観ました。ある教会では、伝説的なアバンギャルド・ギタリスト=デレク・ベイリーが聖堂を歩き回り、キング・クリムゾンのパーカッショニスト=ジェイミー・ミューアが鍋の蓋を引きずり騒がしい音を立てながらフロアを横切るコンサートが見られました。 私はソプラノ・サックス奏者が30分間アルミ箔で包み込まながら即興で演奏するのを見ました。
国立劇場に行くとき、私はよくエンバンクメント駅で下車し、暗くて薄汚れて人気のないハンガーフォード橋を渡りました。橋のたもとでは、いつもサックス奏者やトランペット奏者がバスキングしていました。ロンドンの街灯りがゆらゆらと映るテムズ川に音が鳴り響くのを想像してみてください。ウィキペディアによれば、その橋はより危険な場所になり、1999年には殺人事件があったようです。2015年に妻を連れて行ったとき、そこはフォトレディ国際観光地として再建されていました。私はがっかりしましたが、それを越えて生きました。私は中年です。空気よりも安全。
ロンドンの全てのアートギャラリーは無料でした。私の部屋から大学まで行くためのバスは、南西から北東に至るまで町中を走っていました。サウス・ケンジントンからウォーレン・ストリートに向かう14番のバス路線には、途中下車する場所がたくさんありました。入場無料のよいところは、いくつかの作品を見るためだけに気軽に入れることです。アートはしばしば私の脳に過負荷になるので、少しがよいです。
ある日、どこかのギャラリーで、「Travellers on a Mountain Road」という中国の水墨画を見ました。私は完全に参ってしまいました。その絵のシンプルな墨の力と深みと雰囲気は、渦巻く曇った紙の質感を最大限に引き出すために応用されていました。これらの中国の画家たちは「ネガティヴ・スペース」を発明しました。少しのインクで紙は雲になり、また別のところに少し描くとそれは滝になります。私はその絵の前に立ち、呼吸が荒くなりました。心臓は高鳴り、頭が働きませんでした。
私はヴィクトリア&アルバート博物館で「Travellers on a Mountain Road」を見たことがありますが、オンライン検索でその美術館のコレクションには見つかりませんでした。私は范寬(ファン・クアン)の「Travelers Among Mountains and Streams(谿山行旅図)」を見つけました。その絵は、台北の国立故宮博物院にあるようです。ロンドンバスの14番路線の沿線では決して見たことがありませんでした。多分それは1980年に巡回展の一部として展示されていたと思います。絵の名に相応しいですね。旅する旅の絵。
だから、多くのものの根源となった絵は未だ謎のままです。大学時代はカントリーブルースのギターに夢中で、よくトミー・ジョンソンの「ビッグ・ロード・ブルース」をコーヒーハウスを弾いていました。私はビッグ・ルームの中と外に存在する音楽について考えるようになりました。私にとってジャズとクラシック音楽はビッグ・ルームの中にありました。それは天井までいっぱいで、豊かで魅力的ですが、有限な壁によって本質的に制限されていました。
「ビッグ・ロード・ミュージック」は私をどこにでも連れて行くことができます。それは特に、アメリカ中西部生まれの白人が、私の経験上では全く接点のなかったブルースと水墨画の両方にインスパイアされることを認めてくれました。私はいつも他者のものを盗作してしまうことを気にしていました。ブルースは好きですが、しかしそこに生きてはいません。アイリッシュ・ミュージックも好きですが、それに育てられたわけではありません。私は中国の水墨画が好きですが、それは文字通り世界の反対側のものです。
音楽を部屋や道路に閉じ込めて定義するなんて、20代前半の不愉快な男のように聞こえるでしょうか?許してくれませんか?私は何かを盗む病いを気にすることで自分の傲慢の代償を払いました。私はその戦いを思い出し、少し前に終わらせました。
ブライアン・イーノとジョン・ハッセルは、このアルバムを形成する2つのピースです。イーノの「アンビエント4:オン・ランド」は、マイルス・デイヴィスの「カインド・オブ・ブルー」と同じくらい録音芸術史において重要だと思います。「オン・ランド」は中国の水墨画とまったく同じことをしているように感じます。それは、雰囲気、深み、記憶、郷愁、ミステリー、少しの恐れ、不確実性を放ちます。とてもドキドキします。
ジョン・ハッセルは、西洋クラシック音楽か第三世界かという古い考え方に制限されない第四世界音楽を創造しました。それは私にとって「ビッグ・ロード・ミュージック」のように聞こえました!しかし、ほとんどの人にとっては難しい音楽でした。私がパーティでイーノとハッセルの曲をかけた時、ある男は「これはトルコの刑務所の音楽かい?」と尋ねました。しかし私たちの耳は、思っているよりもっと寛容です。これらの素晴らしいテクスチュアは、今日のビデオゲームや一般広告でも聞かれるようになりました。テレビで見た不凍剤のテレビCMには、間違いなくイーノの作品の一部が盗まれていました!
大学では、サイマルシンク機能を搭載したティアックの4チャンネル・オープンリールを購入し、それを隔離できるようクローゼットに入れて管理しました。そのマシンがあればどこであろうとも、私が当時使っていたどんなレコーディング機材でも、ビッグ・ロード・スタジオになりました。「Traveller」の作曲は、1970年代後半の "Drifts"(友人スーが取り組んでいた白黒の8ミリフィルムのサウンドトラックのために録音)からアルバムが作られた1987年まで続きました。
私はいつ "Embankment"(堤防)をレコーディングしたか思い出せませんが、それが何だったのかは分かります。 私はその曲を聴いて、エンバンクメント駅で下車し、ロンドンの街灯りと優雅に揺らめくテムズ川に響く汽笛の音を聴きながら、ぞっとするような橋を歩いて渡っていたことを思い出しました。灯りに照らされた、音楽の川。
ギターを抱え、キーボードに座ったりするたびに曲が出てきます。それらは私が求めている音楽の全てではありません。群衆の中にいる知り合いの顔のようなものです。混雑した駅で友人の顔を見たときの気持ち。私は彼らが逃げる前にそれら全てをキャプチャすることを気にしていました。そして、私はリラックスして、私は音楽の川の隣に住んでいることを実感しました。 毎日、私は自分自身に問いかけます。「今日の川はどんな感じ?」 - 2017年6月 ウォーレン・サンプソン ▲
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