2018年2月28日水曜日

[187] Eli Gras - Grass Velvet


Label: Esc.rec.
Series: Sediment
Catalog#: esc.rec.56, sediment.5
Format: Box Set, Instrument, Vinyl
Country: Netherlands
Released: 2018

実験音楽、ミニマリズム、インプロヴィゼーション、電子音響、オーケストラから、Motor Comboのようなエレクトロポップ・サウンドまで多彩な音楽経歴を持ち、自身のデザインによる楽器の製作やワークショップ、インスタレーションなど多面にわたり活動しているバルセロナ在住のサウンドアーティストEli Gras(イーライ・グラス)。「Grass Velvet」と名付けられたこの作品は、彼女がオランダ・デーフェンテルのレーベルEsc.rec.からレジデンスの招待を受け、2015年に製作した「Floating Bridge Round Harp」(別名:The Egg)という名のユニークな形状のハープを、木製ボックスに収納し、その楽器だけで奏でた音楽のレコードとセットで、レーベルのセディメント(堆積物)・シリーズとして今年1月にリリースしたもの。ボウルの外縁に設けられたペグと中央に浮かぶ円型ブリッジとの間に張られた40近くの弦を、奏者は円を描くように演奏し、またブリッジに付けられたコンタクトマイクを介して音を出力・増幅することができるエレクトロアコースティック楽器としての性能を備えているそうです。1エディションのみ、価格はおよそ25万円。バンドキャンプではそのレコードから5分の抜粋を聴くことができます。

Eli Gras is a self-taught multidisciplinary artist with a career in experimental and underground music starting in the early 80's. Nowadays her musical practice is focused on experimental improvisation and instrument making, playing concerts, giving workshops and talks. She played with many artists all around Europe and is founder and director of the NoNoLogic Festival and La Olla Expréss records.


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2018年2月24日土曜日

[186] In Be Tween Noise ‎- So Delicate And Strangely Made


Label: New Plastic Music

Catalog#: NPIB- 1
Format: CD, Album
Country: US
Released: 1993
DISCOGS

1 So 2:02

2 Straight Arrow (Navajo Prayer) 8:14
3 Delicate 2:15
4 St. Francis' Vision Of The Musical Angel 11:14
5 And 2:09
6 Phonography 10:49
7 Strangely 2:02
8 Cycle (Re-) 11:03
9 Made 2:42

1964年ロサンゼルス生まれ。オーティス芸術大学、アートセンターカレッジの修士課程でデザインを専攻し、80年代より画家/ビジュアル・アーティストとして活動を始めたSteve Roden(スティーヴ・ロデン)。当時から作曲活動も行っていましたが、彼の名前が広く知られるようになったのは、おそらく90年代の終わりか2000年代に入ってからのこと。微かな物音と無音が強調された──音楽形式におけるミニマリズムを極端に追求した(アンビエント・ミュージックとは実に対比的な、集中したリスニングを要する)ロウワーケース・サウンドの名付け親となり、そのムーブメントの代表的作家の1人として、美術出身者ならではの斬新なアプローチでサウンドアートの地平を開拓してきました。ロデンが80年代中頃から自宅のベッドルームで録りためた音源をまとめ、93年に自身のレーベルからリリースした本作は、現代音楽から影響を受けたミニマリズムの手法に視覚・造形芸術やポエトリーを結び付けはじめた活動初期の記録。後のインスタレーションに基づくロングフォームの作品とは趣きは異なり、ここではアコーディオンやバイオリン、ハーモニウム、打楽器など、いくつもの楽器を一人で操り多重録音されています。それぞれの楽器を流暢に弾き熟すというものでなく、単調なメロディやリズムによりその固有のテクスチュアや繊細なノイズ成分を抽き出すような音響的な使い方に終始しており、故にプリミティヴで、時に奇妙でフォーク・ミュージックのよう。25年経った今も古びた印象を感じさせないオーガニックで美しい作品です。


1993年、私は自分のレーベルNew Plastic Musicから最初の作品「So Delicate And Strangely Made」をリリースしました。寝室で音楽を作りはじめてから8年、音楽はカセットテープとダットテープに時間をかけて記録され、何とか世に送り出す準備ができたと感じて一連の作業を終えました。この音楽を作っていた時、私は実験音楽のコミュニティ、特に地元のシーンをほとんど知りませんでした。インターネットが普及する前で、当時私は小さなレコード店や雑誌やCDをメールオーダーしてくれた人々(私の最初のCDのコピーを注文してくれたWayside Musicなど)を通じて音楽を知ることがほとんどでした。他のサウンドアーティストと連絡を取ったことがなく、そのタームが何を意味するのか全く分かりませんでした。実験音楽やサウンドアートと呼ばれるものとの接点は、ほとんどが「New Music」のコミュニティ、特にアバンギャルド・ミュージックかミニマリズムのコンサートでしたが、やがて高まりつつあるノイズ・シーンを知りました。初期の作品の多く、とりわけこのCDは、スティーヴ・ライヒ、メレディス・モンク、ステファン・ミクス、ハロルド・バッド、アルヴォ・ペルトのような作曲家/音楽家に影響を受けていました。私はまた、エレクトロニクス、シンセ、アコースティック楽器を一緒に使用したエリック・ウォロやピエロ・ミレジ、多くの日本のアーティストを聴きはじめ、また、New Albion、What Next Recordings、Sub Rosaなどのレコードレーベルを知りました。私の音楽がもつ文脈と、それと関わるコミュニティを見つけるのに苦労していました。実際に、私の作品は特定の美学にうまくフィットしませんでした。ノイズ・シーンは私にとても親切でしたが、私の作品は大抵メロディックで常に静かでした。パンク・シーンのように、ノイズ・シーンは様々な実験的言語に開かれ、1990年代初頭から中頃まではとても活気に満ちていて、私の支えになるものでした。この歴史とは別に、文脈を見つけるという点で、最も重要な影響はBroken Musicのカタログとの出会いでした。それは視覚芸術と音楽との間に関係性(と歴史)があったという具体的な証拠を示してくれました。最終的に、ジャン・デュビュッフェが自身の音楽について書いた著作に出会ったことが、私の音楽制作へもっとも大きな影響を与えました。


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2018年2月19日月曜日

[185] Ben Neill - Green Machine


Label: Astralwerks

Catalog#: ASW 6159-2
Format: CD, Album
Country: US
Released: 1995
DISCOGS

1 Ether 10:11

2 Night Vision 10:58
3 Sistrum 11:18
4 Kama Rupa 6:04
5 Critical State 6:56
6 Auricle 7:57
7 Sargasso 4:14

アンビエントのリスナーからも高く評価されるDavid Behrmanの歴史的名作「Leapday Night」や「Unforeseen Events」で自作のトランペットを演奏していたのがこのBen Neill(ベン・ニール)。ノースカロライナに生まれ、マンハッタン音楽学校でLa Monte Youngから作曲を学び、卒業後はニューヨークのアートスペースThe Kitchenで音楽のキュレーションを担当。トランペット奏者として、BehrmanやYoung、Rhys Chathamらの作品に参加していました。ニューウェイヴ・バンドで活動していた80年代初頭から彼が創作を続けてきた「ミュータントランペット」は、複数のトランペットとホルンの部品を組み合わせ、ベル、スイッチ、アナログ・モジュールやMIDIコンバーターなどを備え付けて音質を瞬時に変換できるように構築したハイブリッドなエレクトロアコースティック楽器。本作は、94年にポーラ・クーパー・ギャラリーで披露されたインタラクティヴ・インスタレーション「Green Machine」の音源を収録したセカンドアルバム。このインスタレーションは、自然界に存在する秩序や混沌、周期的なパターン形成をモデルとしながら、ミュータントランペットのライブ・エレクトロアコースティックと映像のプロジェクション(ビジュアル・アーティストChrysanne Stathacosによる720枚の画像)をMIDI信号で同期化させるというもので、音楽と同じ数的構造に基づいて映像をコンピュータで制御する最初の実践だったといいます。異種を組み合わせて新しいものに統合するというニールの楽器創作における考え方は、サウンド面でも共通しており、この後エレクトロニカやドラムンベースを取り入れながらフューチャージャズ方面へと接近していきますが、本作の場合はサウンドの複合性よりも、Space Time ContinuumやFuture Sound Of Londonといった名が並ぶアンビエントテクノのレーベルからインスタレーションに基づく作品がリリースされたことに、アートギャラリーとチルアウト、または現代音楽とアンダーグラウンド・ダンスを橋渡しするような、多文化・越境の面白さを感じます。


Green Machine is an interactive installation/performance work which incorporates live electro-acoustic music and MIDI controlled slide projections. All of the sonic and visual elements are integrated according to principles of resonance and controlled through a unique interactive computer system. Green Machine explores a wide range of environmental states modeled on ideas of order and chaos found in nature. Visual artist Chrysanne Stathacos has supplied 720 images for the projections. The images are details from Stathacos’ ivy, rose, hair and marijuana paintings from 1988-94. The projection architecture and color effects were designed by Jim Conti.


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2018年2月12日月曜日

[184] Løksa - Green Adaptor


Label: Hypnotic
Catalog#: CLP 9880
Format: CD, Album
Country: US
Released: 1996
DISCOGS

1 Green Adaptor 1 8:13

2 Green Adaptor 2 7:43
3 Green Adaptor 3 8:03
4 Green Adaptor 4 9:10
5 Green Adaptor 5 9:30
6 Green Adaptor 6 6:18
7 Green Adaptor 7 9:42

90年代におけるアンビエント・ミュージックは、ある環境の中でその一部として機能するというよりも、多くの場合、聴く人の中に仮想環境を構築し「アンビエント」という心的状態へシフトさせるインストーラーのような役割をもつ音楽だったように思います。(それはバーチャルリアリティやサイバースペース、バイオスフィア、コンピュータネットワーク技術といった領域に関係するもので、特に「Tranquilizer」のような作品に強く感じます。)この「Green Adaptor」は、情報に溢れストレスの多い現実世界から離れ、自分自身の中にあるもうひとつの自然へ適用するための7つのステージで構成された、いわばアナザー・グリーン・ワールドのインストーラー。シンギングボウルの倍音のうなり、チャイムやゴングを思わせる金属的な音、うねうねと浮動するエレクトロニクス、そして全編にわたり全体を包み込む分厚い雲状のドローン。#3-4では水の音、#6では鳥のさえずりといった自然音も挿入されていますが、それらは瞑想のステージを経た無念無想の境地から現実世界を遠目に眺めるかのような、遥か彼方の出来事のようです。作者は90年代前半からいくつかの名義を使い分けてゴアトランス〜テクノ〜ドラムンベース作品をリリースしたデンマーク生まれのプロデューサーJesper Løksa(イェスパー・ロクサ)。おそらく彼の最もディープなアンビエント志向が具現化された一枚だと思います。


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2018年2月6日火曜日

[183] va Excursions In Ambience: A Collection Of Ambient-House Music


Label: Caroline Records

Catalog#: CAROL 1733-2
Format: CD, Compilation
Country: US
Released: 1993
DISCOGS

1 Tranquility Bass - Mya Yadana 6:10

2 The Future Sound Of London - Calcium 5:10
3 The Higher Intelligence Agency - Solid Motion (Black Hole Mix) 6:34
4 Ultramarine - Saratoga (Upstate Mix) 5:12
5 Psychedelic Research Lab - Tarenah 7:35
6 Psychick Warriors Ov Gaia - Obsidian (Deconstructure Edit) 8:11
7 777 - Mia (The Fishermen Mix) 6:07
8 It's Thinking - Afterglow 5:06
9 Banco De Gaia - Desert Wind (El Ahram Mix) 6:51
10 Sub Sub - Past 2:46
compiled by Brian Long & Mr. Kleen

ブライアン・イーノは、彼が70年代半ばに始めた画期的なアンビエント・シリーズにより、一般的にアンビエント・ミュージックの先駆者として認められている。ニューエイジのオーディエンスは、まず音楽の精神性に反応した。イーノのアンビエントの影響がダンス・ミュージックと融合したのは、80年代の終わりのことだった。アンビエント・ハウスのジャンルの中でそれらの試みにははるかに多くの音楽的ボキャブラリーが含まれているが、イーノの音楽はその全ての根源となっている。キリング・ジョークの付き人でE.G. RecordsのA&Rであったアレックス・パターソンは、KLFのジミー・コーティーとジ・オーブという名義でコラボレーションを始め、アンビエント・ミュージックとハウス・ビートの未知なる交配を探求した。1989年の長大なシングル「A Huge Ever Growing Pulsating Brain That Rules From The Centre Of The Ultraworld」を皮切りに、これまで2枚のアルバムと約40分のシングル「Blue Room」をリリースしたジ・オーブと、1990年に「Chill Out」をリリースしたKLF、ともにイギリスにおけるアンビエント探求の先頭を走る両者はアトモスフィアにビートを組み合わせる可能性に影響を及ぼしている。西ヨーロッパ全域とアメリカでは、ハウスとテクノのミュージシャンがトリッピーでアトモスフェリックな要素の導入を試み、地下のアンビエント・シーンを活性化させている。「Excursions In Ambience」は、このまだ新しいジャンルのアメリカ国内初のコレクションである。アンビエント・ハウスと呼ばれる音楽は、ウルトラマリンのポップなサウンドからサイキック・ウォリアーズ・オヴ・ガイアのミニマルなトランス・グルーヴまで、極めて多様だ。 - 93年3月のプレスリリースより