2016年2月1日月曜日

[026.1] Jan

1月のリスニングから
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Lullabies for Insomniacs Guest Mix
アムステルダム発「不眠症のための子守唄」のゲストミックス・シリーズから2つ。メルボルンのフュージョン・バンドHyperboreaのキーボード奏者James Tomと、その友人でNY在住のDJ Danny Ramosによる「Ambient Night Mix」。もう一方は、キャンベラのレーベルMoontown RecordsのオーナーLow Flung aka Playful Soundによる「Australian Ambient Experimental Mix」。両者とも素晴らしいディープなリスニング・セット。Lullabies for Insomniacsはレーベル部門が立ち上げられ、第一弾リリースとしてウィアードな和の感覚をもつ日本人作家SUGAI KENの作品がアナウンスされている

Paki Zennaro - Incostante (PKZ, 1995)
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80年代からコンテンポラリー・ダンスの音楽を数多く手掛けている作曲家Paki Zennaro(パキ・ゼナーロ)。81年に舞踊家/振付家Carolyn Carlson(カロリン・カールソン)のヴェネツィア公演で、René Aubry(ルネ・オーブリー)とJean Schwarz(ジーン・シュウォルツ)による作曲に刺激を受けたことが、その道を進む契機になったという(当時の公演をSosta Palmiziのチャンネルで観ることができるCarlsonとAubry両者との親交を深め、Carlsonの舞台の音楽を何度か担当したらしい。「Incostante」は自主リリースの作品で、ZennaroのソロCDでは最も古いもの。既にストックはなく、サンマルコ広場の絵葉書と一緒に届いたのは手書きのCDRだった。所々に織り込まれる街角の生活音や環境音、フォークロアとモダンな感覚のミックスはAubryにも通じる作風。「Imaginary Choreography」に収められたGianni Visnadiとのコラボレーションは僅かな期間だったというが、ひょっとしてトラディショナルな素養を持つZennaroのギターと、Visnadiのエレクトロニクスは、AubryとSchwarzの関係を准えたアイデアだったのかもしれない。

Bing & Ruth - City Lake (Rvng Intl., 2010/2015)
listen Rails
NYの作曲家/ピアニストDavid Moore(デイヴィッド・ムーア)率いるアンサンブルBing & Ruth(ビング・アンド・ルース)。自身のレーベルHappy Talkから2010年に発表したアルバムが、昨年Rvng Intl.から新装アートワークでリマスター再発。ミニマル音楽的な反復を基軸としながらも、深夜の空気のように静まり返るピアノソロのパートから、パーカッションやギターノイズが荒れ狂う渾沌としたパートまでレンジは広く、クラリネット、チェロ、ヴォイスなどの重奏に具体音を模した音響効果が加わり、像や情感がシネマティックに推移してゆく。インナースリーヴには水路が描かれているが、"City Lake / Tu Sei Uwe"(Philip Glassらによって設立されたMATAの委嘱曲、2009年初演)は都市の地下水脈=自然というイメージだろうか。

Sławek Jaskułke - Sea (Kayax, 2014)
listen Sea III
ベッドルームから静かな海の底へ。中欧音楽を専門とするライター/選曲家=オラシオ氏のレコメンドで知った、ポーランド・プツク生まれのピアニストSławek Jaskułke(スワヴェク・ヤスクウケ)。2000年代初頭から期待の新人として注目を集め、今では新世代ポーランド・ジャズにおける最高峰ピアニストと賞讃されるほど大きな存在だという。「Sea」は、おそらく作者にとって身近なバルト海をテーマにした組曲で、リバーブを施した曇った質感のピアノに、カタカタ・ギシギシという寝息のようなノイズがアクセントとなり、深く親密な空気をつくり出している。CD棚ではRobert HaighやGoldmundのそばに。


Sigbjørn Apeland - Glossolalia (Hubro, 2010)
listen Flyt
エレクトロニック・ミュージックの一つのフォームとなったアンビエントは、主流でありながら実はとても狭い領域を示すのかもしれない。しかし様々な方面に「アンビエント的」な支流があり、それらによってアンビエントというものが、自分にとって複雑な多様性をもつキーワードになっている。昨年、Irena a Vojtěch Havloviの淡い影絵音響や、Áine O’Dwyerの荘厳なパイプオルガン、Thalassingの静穏なインストゥルメンタル・フォーク、またはAnother Timbreの室内楽集に何か連なりのような感触を覚えながらくり返し聴いていた。文脈も趣も作品毎に異なるけれど、共通しているのはアコースティックであること、そしてアンビエント的なニュアンスを感じること。7月に来日したSigbjørn Apeland(シグビョルン・アーペラン)は、ECMやHubroといったコンテンポラリー・ジャズのレーベルから作品を発表しているノルウェー・ベルゲンの鍵盤奏者で、ジャズという枠組みから遠く離れたこの作品にも先のような連なりを感じながら、瞑想的でどこか懐かしい、自在に変化するハルモニウムの響きに深く心酔した。公演には足を運べなかったが、いつかその演奏を間近に体験できたら嬉しい。