2016年4月4日月曜日

[041.1] mar

3月のリスニングから
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Andreas Martin - Doppelpunkt Vor Ort (Robot Records, 1993)
listen Bärenluder
ビザール音響グループH.N.A.S.のメンバーとして、弟Christoph Heemann(クリストフ・ヒーマン)と共に80年代初期から活動する独アーヘン生まれのギタリストAndreas Martin(アンドレアス・マルティン)。H.N.A.S.解散後、The Legendary Pink DotsのメンバーやJim O'Rourkeを交え、Mimir(ミーミル)として活動していた93年に、米Robot Recordsから初のソロ作としてリリースされた10吋盤。もう1枚のソロ作である「Live im Loft」(CDR収録のライブ動画がJon Whitneyのチャンネルで公開されている。)では、Michael Hedgesをはじめとした米ニューエイジ・ギタリストの楽曲を取り上げ、両手タッピングやハーモニクスを多用した技巧的なプレイを見せているが、今作ではその土臭いルーツを匂わせつつも清々しいギターフレーズの反復を主軸に、クラウトロックに通底するトリップ感に満ちた音像を組み上げている。長い活動歴とこの音楽性でソロ2枚はあまりに寡作。

Michel Banabila - Changing Sceneries (1989)
listen Zoom
80年代後期から90年代初期にかけて録音された3作「The Lost Drones Tape」「Harmonium/Piano」「Changing Sceneries」が、昨秋にバンドキャンプ上のディスコグラフィに加えられ、また、今年に入りChiの唯一作がダブテクノのレーベルからヴァイナル化されたりと、現在の作曲活動と並行して、初期作への再評価に応じた動きを見せていたオランダのベテラン・サウンドアーティストMichel Banabila(ミシェル・バナビラ)。複数のレーベルがリイシューを申し出たという初作「Marilli」に関しては、Chiのメンバーをはじめとしたリミックス集「Marilli Remixed」を発表するかわりに、リイシューの可能性はきっぱりと否定していた。その経緯もあって、3月頭にアナウンスされた「Early Works」は、少し意表を突かれるような嬉しいニュースだった。この89年作「Changing Sceneries」は、英独アンビエントからの影響や民族的志向を窺わせつつ、自身のピアノやハーモニウムによるメランコリックな旋律が前面に現れたアルバムで、リリースページには「New Age.」と添えられている。レコーディングに参加したギタリストOscar Peterseの元にあったカセットから起こされたデジタル版。

Michel Banabila - Gardening (Tapu Records, 2012)
listen Changing Weather
ャズ・クラシカル・電子音楽・エレクトロアコースティックなど広範にわたるフォームを掛け合わせ、映画・ドキュメンタリー・演劇などのスコアを手掛けてきたBanabila。民族的要素は長いキャリアを通じて基柱の一つになっている。Eno/ByrneやJon Hassellなどに触発された初期ニューウェイヴ・エスノの民族性が、太鼓・笛・ゴングなどの楽器の音色や抑揚といった音楽的な要素で成り立っていたとすれば、近年のエレクトロアコースティック作「Gardening」では、風・火・土・水のテクスチャの擬態や、木の棒で穀物を突いたり、畑を耕したりする人の動力(労働力)のリズムにフォーカスし、自然と協和する民の精気そのものを抽出するようなミニマムな解釈に迫っている。

Reinhold Friedl - Golden Quinces, Earthed For Spatialised Neo-Bechstein (Bocian Records, 2015)
listen
CageやStockhausenといった現代音楽楽曲をはじめ、Lou Reed「Metal Machine Music」、Manuel Göttsching「E2-E4」など再演、数多くのコラボレーションを果たしている独アンサンブルZeitkratzer(ツァィトクラッツァー)。そのリーダーであるReinhold Friedl(ラインホルト・フリードル)は、主にプレパレーションを施したピアノの内部奏法で知られる異能作曲家。ポーランドの実験音楽レーベルBocianから昨年リリースされた本作は、1920年代の終わりに開発された世界初の打弦式電気ピアノ「ネオ・ベヒシュタイン」を使った作品。振動を減退させるための響板を持たないこのピアノの特性に、2003年頃からピックアップの修正やEQ設定、スピーカーの配列など、ライブ演奏のために重ねてきた試みを集約した56分1トラック。ハムバッカーのピックアップで拾った弦の音を増幅・電子変調したドローンは、ピアノとはにわかに信じ難い、巨大な金属板を叩いたり擦ったりするような硬質な感触で、目が眩むような光を放射したり得体の知れない混沌とした音塊へ形を変えてゆく。


Yui Onodera & Vadim Bondarenko - Cloudscapes (Serein, 2015)
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Brian Enoの70年代のスケッチによると、アンビエント・シリーズは当初イマテリアル(重要ではない・取るに足らない)レコーズとして構想され、「空港のための音楽」に続く作品として「治癒のための音楽」というタイトルが候補になっていたという。実際に発表されたのはEno/Budd「鏡面界」で、「治癒/ヒーリング」は彼のリスナーから忌避されることになる。でも、アンビエント・シリーズは非スピリチュアル・無信仰の音楽ではなく、作者の生死観(「空港のための音楽」は死に備えられたものだった)や浄化のイメージが微かに投影され、どこか境界地域上に浮かぶ冥界の、ガラスのように張りつめた静けさを醸出する透明なエキゾとして響く。「Cloudscapes」の美しいカバーイメージは、そのような雲の領土をさらに上から写した地形図のよう。東京を拠点に建築音響設計に従事するサウンドデザイナーYui Onodera(小野寺唯)と、ロシア・オペラ/バレエのマリインスキー劇場管弦楽団に属するクラリネット/ピアノ奏者Vadim Bondarenko(ワジム・ボンダレンコ)のコラボレーション。


NTS Radio - Lee Gamble (Tom Scott Guest Mix)
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バーミンガム出身、現在はロンドンを拠点に活動するエレクトロニック・ミュージックのコンポーザー/DJ=Lee Gamble(リー・ギャンブル)がホストを務めるNTS Radioのマンスリー・プログラム。3月16日の放送回は、Gambleの友人であり、自主レーベルSkireからAndrew Chalkとの共作を発表している英音響作家Tom James Scottが、チベットやイランの伝統音楽、現代音楽からインダストリアルまで、ミスティックなゲストミックスを提供。オープニング(2:00-)の幻想的なトラックは、Scottの12年ソロ作「Crystal」収録の "Lown" 。