2017年2月2日木曜日

[109.1] jan

1月のリスニングから
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Trijo ‎- Trijo (Panton, 1989)
深く根を張った成木が、古層から水分を吸い上げ、瑞々しい空気を蒸散させる。この作品から想起したイメージは、実際にチェコのオルタナティヴ・シーンで彼らが取り組んでいたことの本質でもあると思う。ヴィオラ・ダ・ガンバ奏者Voitéch Havel(ヴォイチェフ・ハヴェル)の卒業コンサートを機に結成。83年から即興と実験を重ねてきたチェロ+サックス+ビブラフォンの3人に、現代音楽アンサンブルAgon Orchestraの設立者でありピアニストのMiroslav Pudlák(ミロスラヴ・プドラーク)が加わった4人組Trijo(トリーオ)。スリーヴノートではクラシック〜ジャズ〜フォークロアの地境を超える新しい音楽の動向を、OregonやW. A. Mathieuを例に引きながら解説している。繰り返し聴いたプドラーク作の "Leden" はチェコ語で「1月」のこと。

va Fragile: Maneggiare Con Cura (In Venice Records, 1990)
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地元ヴェネツィアで活動する50人の音楽家をリストし、その中から21曲を収録したコンピレーション。おおよそアンビエント・サイドというべきY面で紹介されているのは、一昨年Antinoteから発掘音源がリリースされた当地の電子音楽シーンの草分け的存在Gianni Visnadi(ジャンニ・ヴィズナーディ)。Michael Nyman Ensembleのメストレ公演ではオープニングを務めたジャズポップ・グループFreecko。絵画・彫刻の展覧会やダンスシアターの音楽を手掛けた電子音楽家Massimo Mazotti(マッシモ・マツォッティ)。翌年Sub Rosaからソロ作をリリースする打楽器奏者Bebo Baldan(ベボ・バルダン)。Gigi Masin(ジジ・マシン)の "ヴェネツィアの8つの眺望" は「新しい室内楽 Vol.2」とは別のバージョン。Sub RosaとPixel & Boと共同で年内にソロCDがリリースされると記されているが、それはお蔵入りとなり、後に「Lontano」に収録されることに。

Gianni Gebbia - First Solo Lp Unissued Tapes 1986 (Objet-a, 2017)
listen Algiz
シチリア島パレルモ出身のサックス奏者Gianni Gebbia(ジャンニ・ジェッビア)が、85-86年にプライベート・スタジオSound Eventで4トラックのカセットレコーダーを使って録音していた初作Gianni Gebbia」のデモ&アウトテイク。"Vedersi Passare Le Cose Attorno" はテンポの遅いシャッフルであったり、"CUD" は当初のピアノからやわらかなシンセに置き換えられていたりと、テイクを重ねるごとにアレンジが変わっていった様子が分かる。#10 "Ehwaz" から#13 "Algiz" の4曲は、初作だけでなく他の作品でも聴くことのできないエレクトロニックな要素を打ち出したスタジオ実験的なアンビエント・ジャズで、アルバムのアウトラインが定まる前の創作衝動やアイデアの片鱗が垣間見えるよう。「Early Soprano & Sopranino Solos 1988​-​89」と同時にobjet-aのバンドキャンプを通じてデジタル・リリース。

Jon Gibson - Relative Calm (New World Records, 2016)
40年以上にわたりニューヨークを拠点に活動し、ミニマル・ミュージック第一世代の歴史的作品に参加してきた作曲家/マルチリード奏者Jon Gibson(ジョン・ギブソン)。子供の頃からペインティングやドローイングに勤しみ、ビジュアル・アーティストとして音楽の順列構造やプロセスに基づくグラフィック作品を発表。劇場・オペラ・映画・ビデオ・写真といった視覚表現に強い親和性をもつ音楽作品を作曲している。このCDは、81年12月にブルックリン・アカデミー・オブ・ミュージックのコンテンポラリー・ダンス〜オペラ・シリーズ「The Next Wave」の中で披露された、振付師Lucinda Childs(ルシンダ・チャイルズ)と舞台美術家Robert Wilson(ロバート・ウィルソン)の共同作品「Relative Calm」のための音楽。昨年7月のインタビュー記事(インタビュアーはCatch WaveのBritton Powell)では、85年のビデオ作品が紹介されていた。

Boonlorm - Boonlorm Edits (Wilde Calm Records, 2016)
listen Pernetas
Arthur Russell(アーサー・ラッセル)を手がかりに80年代ニューヨークの前衛シーンにテクノ/ハウスの角度からスポットを当てる、ブルックリン拠点のレーベルWilde Calm Records。レーベルを主宰するSkooby Laposky(スクービー・ラポスキー)が、2014年「String Figures」と同時期に制作していたというミニマル・エディット。マリンバやクラップ、コンガ、管楽器といった生楽器の音色を主体に、ミニマル・ミュージックの根源にある民族音楽〜パーカッションのプリミティヴな律動がモダンなダンス・ミュージックへと昇華される。B面に収められた "Marimbas" はライヒの代表曲のひとつ "Six Marimbas" へのオマージュで、反則と言いたくなるほど直球、でもこの上ない反復の快楽に誘われるモンスター・トラック。

Francisco Semprun / Michel Christodoulides ‎– Mondes Incantatoires Et Espaces Carnivores
(Le Kiosque d'Orphée, 1970)
古式ゆかしい身なりで妙ちきりんなお囃子を奏でながら、わけも分からず目の前を過ぎ去ってゆく祭り行列のよう。シリアスなのか笑ってよいものか、ギミック満載の摩訶不思議サウンドをきかせる10インチレコード「魔術世界と肉食性空間」。パリの先駆的なパントマイム・スクールTEMPの指導者Monique Bertrand(モニク・ベルトラン)とMathilde Dumont(マチルド・ドゥモン)によるマイム劇のための音楽で、作曲者は演劇・ダンスの付帯音楽や映画音楽の仕事に従事していたスペイン出身のFrancisco Semprun(フランシスコ・センプルン)と、ギリシャ出身のMichel Christodoulides(ミカエル・クリストドーリデス)のコンビ。

NTS Radio: Okonkole Y Trompa - 1987 Special
パリのレーベルAntinoteのクルーPAMと日系人DJサトシ・ヤマムラ。L’International RecordsでVito Ricciのレコードをきっかけに出会ったという2人が、2015年にスタートさせた音楽ブログ「オコンコレ・イ・トロンパ」。彼らが選曲を受け持つNTS Radioのマンスリー・プログラムより、1月5日放送回「1987年特集」。Archie Shepp & Jasper Van't Hof "Pulse Of The Roots" ♪