2018年9月27日木曜日

[220] Sanpo Disco - Midday Moon Promo Mix



メルボルンを拠点に国内外のDJやミュージシャンのミックスを紹介している人気シリーズSanpo Disco。英NTS Radioで9月19日に放送されたマンスリー番組の最新回は、ブリスベンのレーベルBedroom Suck Recordsから今秋リリースされる、Rowan Mason(ローワン・メイソン)とJoe Alexander(ジョー・アレキサンダー)の選曲・監修による編集盤「Midday Moon」の特集。80年代初頭から90年代半ばにかけて、イーノからの影響や、シンセサイザーをはじめとする電子音響技術、自国の地理性・民族性・精神性などが結び付き、独自の発展を遂げたオーストラリアとニュージーランドのアンビエント・ミュージック。その知られざる作品に焦点を当てた編集盤のプロモーションを兼ね、収録曲のほかレアな未収録音源も交えた、2時間通じて素晴らしいアンビエント・ミックスとなっています。以下はプレスリリースの粗訳です。


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「ミッデイ・ムーン(白昼の月)」は、1980年から1995年までの間にオーストラリアとニュージーランドから現れたアンビエント・ミュージック/実験音楽を調査したものです。これらの音源は小さなレコードレーベル、プライベートプレス、劇場のサウンドトラック、アーティストの未発表アーカイヴから提供されました。

私の意向は、80年代初頭以降のアンビエント・ミュージックにおけるローカルな表現を探究することでした。当時は、シンセサイザーや初期のワークステーションが消費者市場に参入し、音楽を想像・創造する新しい環境がもたらされた時代でした。これらの転換により、アンビエント・ミュージックへの道が開かれました。それは、「環境の作用」を誘起する音楽であり、「思考するための静けさと空間」を促し、とりわけ「特に1つを強制することなく多くのレベルの聴取に対応することができる」音楽であると、Brian Enoによって説明されます。Enoはこの言葉を作り出し、それ以前に登場したミューザックのような商業的なアプローチによる音楽と区別し、その境界線をより明確に規定しようとしました。私は、オーストラリアとニュージーランドから彼が考える基準を満たす音楽を探したかったのです。このことが、ほとんど私のデスクの上で、インターネットの深層部に潜る長い旅になろうとは思ってもみませんでした。
ブラウザで「オーストラリア」と「アンビエント」という2つの単語を検索すると、縁がぼやけた熱帯雨林の写真と、セラピューティック・ギフトショップのストックフォトCDが表示されました。アンビエントは、しばしばセンチメンタルな旅行客の視点を通して自然風景を眺めるニューエイジのレコードとひとまとめにされます。そのようなアルバムは、鎮静的なシンプリシティを誘起する水晶のように透明なサウンドで満たされ、穏やかで、没場所的です。しかし、私がさらにスクロールするにつれ、より豊富な、より多様なアンビエントのジャンルが形成され始めました。私は、現実と想像、自然と人工、風景と空気で、独特の文化的地理を作り出す音楽を見つけました。一部のアーティストは、自国の周りにある見過ごされた空間の特異な音響生態学に注目していました。また、非西洋圏の音楽文化や楽器に興味を持つアーティストもいました。それらに共通する特徴は、アコースティックと合成音を通じて内外の領域を結び付けるために新しいテクノロジーが運用されている点です。
私は「ミッデイ・ムーン」が壁紙以上のものとして体験され、黙考にふけ、思い巡らすための空間をもたらすことを願っています。John Elderの "Again" は、街角の音、会話、テープループを織り交ぜ、その環境を再現しています。彼の作品は、リスナーに「そこにいる感覚」を与えます。「そして、そこにいることは…」、彼は次のように続けます。「私の作品の全てに関わります。私たちが訪れた場所のスピリットを宿しているという意味で、それをソウル・ミュージックまたはスピリチュアル・ミュージックと呼びたいのです」。同様に、Sam Malletの "Westgate Bridge at Dawn" では、メルボルンで最も有名な産業ランドマークを通った経験が奇妙に再現されています。Not Drowning, Wavingの作品には、オーストラリアのブッシュ(郊外の森林)とアウトバック(内陸部の広大な砂漠地帯)の不安定な美しさに関する多くの瞑想が含まれています。 Ros Bandtの作品は、アコースティック、ライヴ・エレクトロニクス、音響のマニピュレーションのさまざまな融合を反映しています。Bandtの習作は、彼女の広範なキャリアの上で多数の形態がとられています。例えば、アルバム「Stargazer」で、彼女は地下5階のコンクリート製シリンダーの共鳴を探りました。幸いにも、そのプロジェクトから "Starzones" という曲を収録することができました。
ここに含まれているアーティストの多くは、展示会、映画、演劇などの楽曲を制作することで安定した収入を得ました。その例として、Blair GreenbergがタウンズビルのダンスカンパニーDancenorthのために制作した "Rainforest"、Beyond The Fringeがダンスシアター作品「The Dove」のために制作した "Guitar Fantasia"、Sam MalletがAnthill Theatreのために現在も継続している制作活動が挙げられます。このコンピレーション・アルバムのタイトルは、実際にTrevor Pearceによる同名の劇場作品から着想を得たものです(残念ながら、今回それを収録することができませんでした)。これらの機会は、音楽の芸術的表現を飛躍させました。しかし、そのような機会がなくても、確立された拠点や統一されたシーンがなくても、多くのアーティストがアウトサイダーのように活動し、プライベートで独立したレーベルで、比較的小さなコミュニティのリスナーのために音楽を作ることに満足していました。Helen Ripley Marshallの "Under the Sun" はこの代表的な例であり、またTom Kazasの最初のソロアルバムも同様です。Kazasのアルバム「Deliquescence」は、彼の1980年代のサイケデリック・ロック・バンドThe Moffsがまだ活動していた頃にリリースされました。当時はイーサリアル・サイケと評されましたが、間違いなく彼のバンドの音に繋がっていました。より正確に言えば、Kazasは、アンビエント・ミュージックを空気、楽器、実験音楽を探る手段として、また当時のロック・ミュージックの限界に対するひとつの反動として取り入れました。John Heussenstammの音楽も同様に、予期せぬ方向転換を図りました。主にDeniece Williamsのようなアーティストのためにブルース、ソウル、ジャズのギタリストとして活動した後、Johnはアメリカからパースへ移り、自身のレコード会社Hammerheadから3枚のアンビエント・アルバムをリリースしました。彼は、彼自身が根本的であると感じたこと、つまり「音楽はスピリチュアルであり、心に密接に関係しているほど高尚なものになり、それは永遠のものを表現する」ことを音楽に活かそうとしました。
音楽を共有することを承諾し、「ミッデイ・ムーン」に寄与してくださったアーティストに心から感謝します。そして、彼らの音楽がこのコンピレーションによって新しいオーディエンスに届けられることを願っています。皮肉なことに、私はこのコンピレーションを仕上げるために多くの時間をコンピュータの画面に貼り付いて過ごしましたが、このコンピレーション自体がリスナーが画面から離れるチャンスになれればと思います。この音楽を聴きながら、あなたが現在に繋がり、心を穏やかに、感覚を落ち着かせて、本当の、もしくはどこか想像上の場所へと旅しますように。
Rowan Mason, Melbourne, June 2018
*the original English text can be found here. 


va Midday Moon (Bedroom Suck Records, 2018)
including detailed track credits,
liner notes and original artwork by Louis Kanzo.
compiled by Rowan Mason and Joe Alexander.

2018年9月26日水曜日

[219] 静寂を求めて 癒やしのサイレンス



静寂は心を鎮め、開かせる。そして心を環境と調和させる。

騒音から逃れるため、グレッグ・ヒンディは23歳の誕生日までの1年間、沈黙の誓いを立て、一言も発せずに徒歩でアメリカ大陸を横断した。作曲家ジョン・ケージが音楽の新たな地平を開いた独創性に富んだ無演奏の曲「4分33秒」は、演奏以外の「無」を聴き、そして観るという、常に揺れ動く心に静かな居場所を与えるような全く新しい体験をもたらした。日本の宮崎良文教授は、森林浴によって都会人がリラックスし、ストレスが軽減することや、低下していた免疫機能が改善することを大学医学部等との共同研究で確認した。静寂の必要性が急速に高まっていく中、『静寂を求めて』は、私たちがあらゆる音に囲まれて生きるこの21世紀を、静寂、音楽、騒音などの音に焦点を当て、健全に生きるための方法を探究するドキュメンタリーである。

監督:パトリック・シェン プロデューサー:パトリック・シェン、アンドリュー・ブロメ、ブランドン・ヴェダー

共同プロデューサー:キャシディー・ホール
編集:パトリック・シェン
撮影:パトリック・シェン、ブランドン・ヴェダー
音楽:アレックス・ルー
製作総指揮:アンドリュー・ブロメ、ポピー・スキラー、ラリー・ファインゴールド
アソシエイト・プロデューサー:マイケル・コールマン
編集顧問:ナサニエル・ドースキー

出演者:グレッグ・ヒンディ、宝積玄承、ジョン・ケージ、奈良 宗久、デイヴィッド・ベチカル、宮崎 良文 他

81分/2015年/英語・日本語
配給:ユナイテッドピープル 原題:IN PURSUIT OF SILENCE

協力:銀座ソーシャル映画祭


2018年9月22日土曜日

[218] ナチュラル・クワイエットを求めて



YBS山梨放送のFMラジオ開局記念として2018年1月28日に放送された特別番組「ナチュラル・クワイエットを求めて」。「ナチュラル・クワイエット」とは、車の走行音、電子音などの人工音が全くない、自然の音しかない状態のこと。無音である「サイレント」の状態とは違い、心地よい自然音との均衡が保たれた、穏やかな静けさを意味するそうです。この番組の出演者は、1990年から山梨県北杜市武川の森の中にスタジオを構え、サイバーフォニックと呼ばれる独自の3Dサウンドシステムで自然音を録音し、現代人の心に優しく響くリラクセーション・サウンドを作り続けてきた環境音楽のパイオニア=小久保隆。70年代後期からエレクトロニクスを主体に音楽を制作していた小久保氏が自然音の世界に深く傾倒してゆくきっかけとなった出来事や、フィールドワークを通じて体験したことなど、自らの言葉で振り返りながら、サイバーフォニックで集音した四季折々のナチュラル・クワイエット音、この番組のために制作された「武川の四季」などの楽曲を紹介。人間と自然の共生について、聞き手に静かに問いかける50分。(アップローダーはmichitomiokaさん。シェアしてくださり感謝です。)


小久保隆/Takashi Kokubo

環境音楽家・音環境デザイナー。自然が持つ“人の心を癒す力”に注目し、現代人の心に優しく響くリラクゼーションミュージックを制作。深い癒しの音を求めてこれまでに訪ねた国と地域は50ヶ所にのぼる。「水の詩」「風の詩」「Quiet Comfort」(共にイオン レーベル)、「イヤーバカンス・シリーズ」(コロムビア)などCDを多数リリース。その他、携帯電話緊急地震速報のアラーム音や、電子マネー「iD」のサイン音、東京「六本木ヒルズアリーナ」の環境音楽など、音環境デザイナーとしても幅広い分野で活躍をしている。


Forest Healing (Della Inc., 2016)

A Dream Sails Out To Sea: Get At The Wave (Lag Records, 2018)

2018年9月20日木曜日

[217] Kajsa Lindgren - WOMB

ベルリンの実験音楽レーベルHyperdeliaよりリリースされた、スウェーデンのサウンドアーティストKajsa Lindgren(カイサ・リンドグレン)のファースト・アルバム「ウーム」(子宮の意)。自然のフィールド・レコーディングと身体の音、インタビュー素材などで構成された自身のコンポジションをプール内での録音/再構築。水中のインパルス・レスポンス効果と微細なノイズ成分が加わり、深い海の底か、遠い記憶を漂うような異空間的音響が展開されています。下のリンクは、アルバムのリリース直前にロンドンのオンラインラジオResonance FMで放送された特別番組。

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This episode: special broadcast of WOMB, by Kajsa Lindgren, an underwater concert of aquasonic poetry heard as a reminiscence to voices from childhoods once lived, of distant musics and imagined sonic ecologies. The initial composition material of field-recordings of nature and body sounds, interviews and compositions has been re-recorded and re-amped underwater for broadcast on Resonance Extra, ahead of its imminent release via Berlin's Hyperdelia label on June 15th 2018. Recorded live at Stockholm bath-house Storkyrkobadet, supported by Kulturbryggan, Sweden.

2018年9月16日日曜日

[216.1] Mori To Kiroku No Ongaku #7



昨シーズンに続き、2018-2019シーズンもLYL Radioの隔月2時間枠を担当することになりました。LYLから新しいスケジュールが届いたのが初回放送日のちょうど1週間前(何の前触れもなく届いたので少し焦りました)。その日は、北海道胆振地方を震源とする大きな地震が起きた日でもありました。地震発生後にSNSで情報を追っていたところ、北海道に住んでいる方が停電時に撮影した星空の写真が目に留まり、その幻想的な美しさが強く印象に残りました。今回の2時間の選曲は、その写真を見たときの複雑な気持ちと結びついています。豪雨、台風、地震。各地で被災された方が、一日でも早く平穏な生活に戻られますように。


the first episode of my LYL Radio show in the new season is a two-hour ambient mix inspired by a picture of a star-filled night sky, which I saw on social media a week ago. it was taken by a person who lives in Hokkaido during the power outage due to the 2018 Hokkaido Eastern Iburi Earthquake. I sincerely pray for the safety and peace of mind of everyone who suffered from these disasters.



tracklist:
Harold Budd & Clive Wright - Sunday After The War
Shuta Yasukochi - Another Light
Robin Guthrie & Harold Budd - Snowfall
Slow Dancing Society - Be There
Marconi Union - These European Cities
Fibreforms - Untitled Bright Format
Guy Gelem - Second Tide
Colin Fisher - VIII
Zbigniew Lewandowski - Zmęczenie
Albrecht La'Brooy - Daybreak
Gianluca Petrella - Cue
Matthew Hayes & Joel Trigg - Downtime
New Zion Trio - Niceness
Ekimi - Che Wa Sha Wo
Paul Speer - Lento
Bob Siebert - Piece in E Flat
Sunstroke - Nothing's Wrong In Paradise
Hiroki Okano - Hamon
Ayuo Takahashi - Grasslands
Kenjiro Matsuo - Without Wind