メルボルンを拠点に国内外のDJやミュージシャンのミックスを紹介している人気シリーズSanpo Disco。英NTS Radioで9月19日に放送されたマンスリー番組の最新回は、ブリスベンのレーベルBedroom Suck Recordsから今秋リリースされる、Rowan Mason(ローワン・メイソン)とJoe Alexander(ジョー・アレキサンダー)の選曲・監修による編集盤「Midday Moon」の特集。80年代初頭から90年代半ばにかけて、イーノからの影響や、シンセサイザーをはじめとする電子音響技術、自国の地理性・民族性・精神性などが結び付き、独自の発展を遂げたオーストラリアとニュージーランドのアンビエント・ミュージック。その知られざる作品に焦点を当てた編集盤のプロモーションを兼ね、収録曲のほかレアな未収録音源も交えた、2時間通じて素晴らしいアンビエント・ミックスとなっています。以下はプレスリリースの粗訳です。
...
「ミッデイ・ムーン(白昼の月)」は、1980年から1995年までの間にオーストラリアとニュージーランドから現れたアンビエント・ミュージック/実験音楽を調査したものです。これらの音源は小さなレコードレーベル、プライベートプレス、劇場のサウンドトラック、アーティストの未発表アーカイヴから提供されました。
私の意向は、80年代初頭以降のアンビエント・ミュージックにおけるローカルな表現を探究することでした。当時は、シンセサイザーや初期のワークステーションが消費者市場に参入し、音楽を想像・創造する新しい環境がもたらされた時代でした。これらの転換により、アンビエント・ミュージックへの道が開かれました。それは、「環境の作用」を誘起する音楽であり、「思考するための静けさと空間」を促し、とりわけ「特に1つを強制することなく多くのレベルの聴取に対応することができる」音楽であると、Brian Enoによって説明されます。Enoはこの言葉を作り出し、それ以前に登場したミューザックのような商業的なアプローチによる音楽と区別し、その境界線をより明確に規定しようとしました。私は、オーストラリアとニュージーランドから彼が考える基準を満たす音楽を探したかったのです。このことが、ほとんど私のデスクの上で、インターネットの深層部に潜る長い旅になろうとは思ってもみませんでした。
ブラウザで「オーストラリア」と「アンビエント」という2つの単語を検索すると、縁がぼやけた熱帯雨林の写真と、セラピューティック・ギフトショップのストックフォトCDが表示されました。アンビエントは、しばしばセンチメンタルな旅行客の視点を通して自然風景を眺めるニューエイジのレコードとひとまとめにされます。そのようなアルバムは、鎮静的なシンプリシティを誘起する水晶のように透明なサウンドで満たされ、穏やかで、没場所的です。しかし、私がさらにスクロールするにつれ、より豊富な、より多様なアンビエントのジャンルが形成され始めました。私は、現実と想像、自然と人工、風景と空気で、独特の文化的地理を作り出す音楽を見つけました。一部のアーティストは、自国の周りにある見過ごされた空間の特異な音響生態学に注目していました。また、非西洋圏の音楽文化や楽器に興味を持つアーティストもいました。それらに共通する特徴は、アコースティックと合成音を通じて内外の領域を結び付けるために新しいテクノロジーが運用されている点です。
私は「ミッデイ・ムーン」が壁紙以上のものとして体験され、黙考にふけ、思い巡らすための空間をもたらすことを願っています。John Elderの "Again" は、街角の音、会話、テープループを織り交ぜ、その環境を再現しています。彼の作品は、リスナーに「そこにいる感覚」を与えます。「そして、そこにいることは…」、彼は次のように続けます。「私の作品の全てに関わります。私たちが訪れた場所のスピリットを宿しているという意味で、それをソウル・ミュージックまたはスピリチュアル・ミュージックと呼びたいのです」。同様に、Sam Malletの "Westgate Bridge at Dawn" では、メルボルンで最も有名な産業ランドマークを通った経験が奇妙に再現されています。Not Drowning, Wavingの作品には、オーストラリアのブッシュ(郊外の森林)とアウトバック(内陸部の広大な砂漠地帯)の不安定な美しさに関する多くの瞑想が含まれています。 Ros Bandtの作品は、アコースティック、ライヴ・エレクトロニクス、音響のマニピュレーションのさまざまな融合を反映しています。Bandtの習作は、彼女の広範なキャリアの上で多数の形態がとられています。例えば、アルバム「Stargazer」で、彼女は地下5階のコンクリート製シリンダーの共鳴を探りました。幸いにも、そのプロジェクトから "Starzones" という曲を収録することができました。
ここに含まれているアーティストの多くは、展示会、映画、演劇などの楽曲を制作することで安定した収入を得ました。その例として、Blair GreenbergがタウンズビルのダンスカンパニーDancenorthのために制作した "Rainforest"、Beyond The Fringeがダンスシアター作品「The Dove」のために制作した "Guitar Fantasia"、Sam MalletがAnthill Theatreのために現在も継続している制作活動が挙げられます。このコンピレーション・アルバムのタイトルは、実際にTrevor Pearceによる同名の劇場作品から着想を得たものです(残念ながら、今回それを収録することができませんでした)。これらの機会は、音楽の芸術的表現を飛躍させました。しかし、そのような機会がなくても、確立された拠点や統一されたシーンがなくても、多くのアーティストがアウトサイダーのように活動し、プライベートで独立したレーベルで、比較的小さなコミュニティのリスナーのために音楽を作ることに満足していました。Helen Ripley Marshallの "Under the Sun" はこの代表的な例であり、またTom Kazasの最初のソロアルバムも同様です。Kazasのアルバム「Deliquescence」は、彼の1980年代のサイケデリック・ロック・バンドThe Moffsがまだ活動していた頃にリリースされました。当時はイーサリアル・サイケと評されましたが、間違いなく彼のバンドの音に繋がっていました。より正確に言えば、Kazasは、アンビエント・ミュージックを空気、楽器、実験音楽を探る手段として、また当時のロック・ミュージックの限界に対するひとつの反動として取り入れました。John Heussenstammの音楽も同様に、予期せぬ方向転換を図りました。主にDeniece Williamsのようなアーティストのためにブルース、ソウル、ジャズのギタリストとして活動した後、Johnはアメリカからパースへ移り、自身のレコード会社Hammerheadから3枚のアンビエント・アルバムをリリースしました。彼は、彼自身が根本的であると感じたこと、つまり「音楽はスピリチュアルであり、心に密接に関係しているほど高尚なものになり、それは永遠のものを表現する」ことを音楽に活かそうとしました。
音楽を共有することを承諾し、「ミッデイ・ムーン」に寄与してくださったアーティストに心から感謝します。そして、彼らの音楽がこのコンピレーションによって新しいオーディエンスに届けられることを願っています。皮肉なことに、私はこのコンピレーションを仕上げるために多くの時間をコンピュータの画面に貼り付いて過ごしましたが、このコンピレーション自体がリスナーが画面から離れるチャンスになれればと思います。この音楽を聴きながら、あなたが現在に繋がり、心を穏やかに、感覚を落ち着かせて、本当の、もしくはどこか想像上の場所へと旅しますように。
Rowan Mason, Melbourne, June 2018
*the original English text can be found here. ▲
va Midday Moon (Bedroom Suck Records, 2018)
including detailed track credits,
liner notes and original artwork by Louis Kanzo.
compiled by Rowan Mason and Joe Alexander.