Label: Horizon
Catalog#: hrzn-002
Format: CD, Album
Country: Japan
Released: 2003
1 Relief 6:30
2 Unwind 6:47
3 Swerve 4:00
4 Caló Des Moro 5:13
5 Outside 5:13
6 Suite 4:43
7 Goof 5:45
8 Cph/Malmoe 5:07
9 Re:Version 1:20
10 Andante (For Frederik) 5:20
ブログの更新を休止していた時期、Real Ibizaをはじめとするイビサ系コンピレーションの中古CDを買い集めては、ひたすら聴き入っていたことがありました。CDの販売枚数がピークに達した2000年前後。チルアウトは大衆を巻き込んだ大きなムーブメントとなり、夕陽やビーチのイメージを掲げた企画盤が次々とリリースされていました。今日まで形を変えながら連綿と続くジャンルである一方で、当時の華やかなブームの中にあった作品の多くは、今では話題に上ることもほとんどなく、ひっそりと静かなまま取り残されているような印象を受けます。それは、以前ウィンダムヒル作品の収集に没頭していた頃に感じた、往年の自然派ニューエイジの凋落ともどこか重なるものがあります。
2000年代初頭、このヨーロッパの潮流に日本から呼応し、BlissやCantomaなどの良質な作品を国内に紹介していたのがHorizonの「blueline」シリーズ。そのリリース作品にふれて特に印象深かったのが、コンピレーションに収録されていたFluffと、このFlipsideという二つのユニットでした。
Fluffは、北欧コペンハーゲンの名門Music for Dreamsを象徴するBlissの主要メンバーであるMarc-George Andersen(マーク・ジョージ・アンデルセン)とJan Winther(ヤン・ヴィンター)によるユニット。もう一つのFlipsideは、同じくBlissの核を担うKlaus Bau Jensen(クラウス・バウ・イェンセン)が、スウェーデン出身のギタリストSebastian Lilja(セバスチャン・リリャ)と組んだユニット。いずれもBlissの派生プロジェクトでありながら、ユニット名だけがさりげなく提示されているため、やや匿名的にも感じられます。しかしその背景には、イェンセンが共同設立したLoadstar RecordsやRealtime Studioを中心とするローカルコミュニティが存在し、身近なアーティスト同士が互いにリミックスを提供し、ゲストとして参加しあう、地に足の着いたクリエイティヴな関係が築かれていたようです。
本作「Inside」は、そのLoadstar Recordsから発表されたFlipsideの1stアルバム。哀愁を帯びたアコースティックギターのフレージング。淡く重なるメロウなシンセパッド。チェロやコルネット、ピアノといったゲスト奏者を迎え、当時の潮流のなかでもひときわ静謐なタッチで、清涼感と有機的な温かみが共存する独自のサウンドを構築しています。民族音楽やクラシックの要素を取り入れて壮大な世界観を提示したBlissに対し、Flipsideはあくまでインストゥルメンタルに徹し、映像的でイマジナリーな余白を残した表現にフォーカスしています。その志向は、かつてウィンダムヒルの奏者たちが身近な音楽仲間たちと、質直なアンサンブルを通してレーベルカラーを育んでいった歴史とも、やはりどこか共振しているように思えます。
彼らが残したオリジナルアルバムは、本作を含め全3作。作風に大きな変化はなく、リリースを重ねるごとにやや停滞感を覚える部分もありますが、それでも本作の静謐なタッチには、BGMとして消費されることを拒むような、穏やかながら研ぎ澄まされた職人的な美意識が確かに感じ取れます。レイヴ文化の熱狂に対するカウンターとして生まれ、ダブやジャズを吸収しながら深化を遂げたダウンテンポ/チルアウト。やがてリゾートカフェやラグジュアリーホテルのような洗練されたイメージが付加され、消費の対象へと加速していきました。自分にとっては好きな部分と、そうではない部分の両方があります。Flipsideの音楽は、その境界線の上で理性を保ち、確かな場所へ踏みとどまろうとする良心のような存在にも感じられます。
コロナ禍を境に社会の雰囲気や自分自身の生活も大きく変化し、また子どもたちの成長という個人的な節目も重なり、その移り変わりのなかで聴いていた作品には、特別な感情が湧きます。ブルーリスニングのクラシックとして、聴き続けたい一枚です。
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