2017年1月15日日曜日

[105] Kon Teifi


Label: Coracle Audio Documents
Catalog#: COR001
Format: Cassette, Album
Country: UK
Released: 1974/2015
DISCOGS

A Untitled 19:24

B Untitled 19:11

ウェールズのテイフィ川沿い、ストラータ・フロリダの泥炭沼地の地中深くから発見された一体の木像。造形からポリネシア製と思われたが、なぜウェールズに人が住みはじめた先史時代の地層に眠っていたのかが大きな謎だった。研究が進むにつれて「古代ウェールズはポリネシア人が移住し開拓したのではないか」という推論が導きだされ、それを裏付けるいくつかの具体的な証拠が提示された。1つ目は、南太平洋ニウエの伝統楽器ログハープ(logo tellie)とウェリッシュハープ(telyn)が、言語的にも音楽学的にも同じ起源から派生したこと。2つ目は、フィジーとウェールズの伝統的住居の構造が似ていること。3つ目は、イギリスやアイルランドの河川で使われていたコラクル(籠舟)が、ポリネシアからウェールズまでを航海するための条件を満たしていたこと。テイフィ川は、何千年も前にポリネシア人が上陸した場所だった。ウェールズの歴史研究を根底から覆す古代のロマンに魅せられたある学者が、その航海を身をもって再現しようと、手製のコラクル=Kon Teifiをニウエに運び、18,000マイルの船旅を決行。1971年7月に出発し、南アメリカ東岸〜北アフリカ西岸に沿って大西洋を北上、1年2ヶ月後の72年9月にウェールズにたどり着き、その試みは成功に終わった。 2015年夏のある日、イギリスのレーベルTuluum Shimmering Recordingsに12本のカセットテープが入った箱が送られてきた。差出人の名前も返送先の住所も書かれておらず、テープを配布してほしいという旨のメッセージのみが記されていた。タイトルは「Kon Teifi」。それは44年前、古代の航路を旅した学者が、航海の間にNorelco製カセットレコーダーで現地録音した音声資料を、74年に自費出版したものだと分かった。


以上が「Kon Teifi」がリリースされるまでの経緯。ニウエの浜辺で録音されたという穏やかなギターの調べからはじまり、中継する島々で出会った民族音楽、海の上で学者自ら演奏したハープ、テイフィ河口で旅の到着を迎えるフルート、テイフィの奥深くの森に響く儀式的なドラムまで、旅のルート順に収録され、録音した地点を示す地図を掲載したリーフレットが付属しています。しかし、なぜ多重録音になっているのか。本当に小さな籠舟で18000マイルも旅することができたのか。そもそもポリネシア人起源説はどうなったのか、と色々な疑問が沸いてきますが、本作はおそらく架空の物語を創作した音楽作品であり、その仕掛人はレーベル主宰のJake Webster(ジェイク・ウェブスター)ではないかと考えられます。

Jürgen MüllerUrsula BognerTim RobertsonMartin ZeichneteFlat Staticなど、架空の人物やプロジェクトを装い、彼らの発掘音源としてリリースされた作品は、単なるフェイクではなく、映画や小説と同様のフィクション形式という音楽の新しい表現手法として近年確立されつつあるのかもしれません。ハープが物語と音楽の鍵となっている本作の場合は、Todd Bartonが小説に登場する先住民族の音楽を創作した「ケシュの音楽」に近いアプローチ、フィールドワークの音声資料という設定よりも物語全体のサウンドトラック的な構成で、壮大な海の旅を素朴なタッチの空想民族音楽で演出しています。

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microphones in the trees: kon teifi
Tuluum Shimmering Records: Audio Archaeology