12月のリスニングから
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C Duncan - The Midnight Sun (FatCat Records, 2016)
listen Do I Hear
この作曲家らしいメロディだと思いながら聴き耽っていた「EP」収録の "Pearly-Dewdrops' Drops" は、実はCocteau Twinsのカバー曲だった。幻想的な音楽性を構成するクラシック以外のルーツを明かしてくれるような選曲だと思う。C DuncanことChristopher Duncan(クリストファー・ダンカン)は、彼らと同じスコットランド・グラスゴー出身の作曲家/画家。ソフトサイケ色を帯びた田園フォークと、フォーレやラヴェルといった作曲家に喩えられるコーラル的和声が融和された、深く甘い針葉の香りを放つ独特のサウンド。TVドラマ「トワイライトゾーン」のシーズン3にインスパイアされたという新作でも基本は変わらず、牧歌性が少し後退するかわりに幻想的なスケールをさらに押し広げている。今もっとも好きなシンガーソングライターのひとり。
Port St. Willow - Syncope (People Teeth/flau, 2016)
listen Three Halves Whole
C Duncan同様に、Grizzly Bearや後期Talk Talkが引き合いに出されていた作品。即興によるフリーフォームで実験的なセクションに比重が置かれ、ダウントーンの密室空間にファルセットが舞い漂う幻想耽美なサウンドが展開される。Port St. Willow(ポート・セント・ウィロー)は、ポートランド出身で現在NYブルックリンを拠点に活動するNicholas Principe(ニコラス・プリンシペ)によるソロ・プロジェクト。エンジニアのVictor Nash(ヴィクター・ナッシュ)がフレンチホルンとトランペット、他にアルトサックスやピアノでゲストを迎えているが、この統制されたバンドアンサンブルの骨格はマルチ・インストゥルメンタリストであるプリンシプ自身が演じている。2015年にプライベートレーベルPeople Teethからヴァイナル、年を跨いで東京のレーベルflauからボーナストラックを含むCDがリリース。昨年末いろいろな方のベストディスクに選ばれていたことも納得だった。
Gaspar Claus & Casper Clausen - Claus & Clausen (L'autre Distribution, 2016)
listen Channel
Arthur Russellを彷彿とさせるエコーと静寂、空間を震わすチェロと声の霊舞。フラメンコ・ギタリストPedro Soler(ペドロ・ソレール)を父にもつフランス人チェロ奏者Gaspar Claus(ギャスパー・クラウス)と、コペンハーゲンのオーケストラル・ポストロック・バンドEfterklangのメンバーとして活動してきたヴォーカリストCasper Clausen(キャスパー・クラウセン)。名前のスペルがよく似ているが、それぞれの祖父が1954年の初めにリスボンの同じ場所に居合わせていて、彼ら自身も10代の頃に同じ住居で顔を合わせずに1週間過ごしたことがあり、これまで何度も同じ場所ですれ違っていたという。2人が出会ったのは、共通の友人である映像作家Vincent Moon(ヴィンセント・ムーン)が、2014年12月にリオデジャネイロで見た奇妙な夢がきっかけに。「2人の老人がほとんど並行した長い道を歩いていて、その道が合流する地点でもうひとりの男が立っていた……」老人がポルトガルを話していたことからリスボンだと確信。クラウスとクラウセンにその予言的な夢の内容が告げられ、2015年2月に3人はリスボンに集まりこのアルバムを4日間で録音させた。幾多の偶然の物語を引き寄せたVincent Moonは、本作の影の脚本家だと思う。
Hiele - Saints OST (Ekster, 2016)
初代フランス皇帝ナポレオン幽閉の地として知られ、世界一孤立した有人島としてギネスに登録されるイギリス領の火山島・セントヘレナ。広大な南太西洋に浮かぶこの島に行くためには、南アフリカ・ケープタウンから3週間おきに運行される郵便船に乗るほか手段はなかった。しかし、セントヘレナ空港が開港すれば、片道5日間かかっていた距離を5時間で移動できるようになるという。新たな空路を活用し、絶海の孤島をエコツーリズムの楽園に変え、観光客を獲得しようとする外国人投資家と英国政府。島の在り方や住民の生活が大きく変わろうとしているセントヘレナを映した、Dieter Deswarte(ディター・デスワルト)監督によるドキュメンタリー映画「Saints」のために、ベルギーの作曲家Roman Hiele(ローマン・ヒール)が制作したサウンドトラック。クラリネットやダブルベースに、アルモニカやハンドパンに似たやわらかな響きを主調とした、Laurence Craneの新作にも通じる簡素な室内・器楽曲と、Eksterらしいエキゾ感漂うレフトフィールドな電子音。全体で約18分。
Arden Day & Wysozky, Benjamin Tixier - Totems (Cairos Edition, 2014)
スイス・ロカルノ国際映画祭で金豹賞を受賞したSarah Arnold(サラ・アーノルド)監督による短編映画「Totems」のサウンドトラック。Arden Day(アーデン・デイ)はプリペアードピアノとハーディガーディに似た箱形楽器ボアタ・ボードン、Benjamin Tixier(ベンジャミン・ティクシエ)はギターを演奏し、Wysozky(ヴィソツキー)がコンピューター・プロセッシング、録音、アレンジ、ミックスを担当している。BABの発するぼんやりとした持続音の上を、ブリッジミュートしたギターと打楽器感の強いピアノが転がる "L'arrivée" や "Libération" のリズミックな耳心地。デイとヴィソツキーは、今月末にPenultimate Pressから初のヴァイナル作品「The Pancrace Project」をリリースする。
Phantom Posse - Be True (2016)
listen Carmela & Tone (feat. Nadia)
Phantom Posse(ファントム・ポッセ)は、NYブルックリンで活動するEric Littmann(エリック・リットマン)が、個人的な感情を投影したオーディオ日記として毎月EPをリリースしていたプロジェクトPhantom Powerが基本となり、そこに個性溢れるシンガーソングライターが集結したインディポップ・コレクティヴ。「Be True」は彼らが自主リリースした4枚目のアルバムで、スリーヴには11名のソングライターの名が記されている。1曲毎に作曲者兼リード・ヴォーカルが変わるヴォーカル曲と、その間にインタールード的に挿入されるインスト曲。各ソロ作品へ分岐する交差点の道標ともいうべきアルバムで、コレクティヴのフレンドリーな雰囲気が伝わってくるような素敵な作品だと思う。フェイヴァリット・トラックは、Nadia Hulett(ナディア・ヒュレット)が歌う "Carmela & Tone" と美しいアンビエント・シンセ "Stay True" 。Chris Masullo(クリス・マスロ)のソロ名義Nicholas Nicholas(ニコラス・ニコラス)の新作「About Town」も素晴らしい。