Catalog#: -
Format: Digital, Album
Country: UK
Released: 2015
1 The Green Crown i 11:27
2 The Green Crown ii 11:34
3 Phase Shift 16:11
フォークロア・リスニング①。ある演奏会に参加したとき、静かに発せられる音に演奏者の内面性が滲んで見え、ふと「弧のフォークロア」という言葉が頭に浮かびました。フォークロアとは人々(folk)の知恵(lore)という意味で、一般的には村や郷といった集合体の中で生まれた習俗や伝承を指す語。でも、その最小単位である人間一人が、自分自身のために身につけた知恵も同じようにフォークロアといえるのだろうかと。それは悩みや憂いといった他者に容易に伝えることのできない感情を含み、たとえ自分の子であっても委ねることができず、静かに抱えて死んでゆくような寡黙なものかもしれない。誰かに継承できないほど私的なもので、次の代も同じようにくり返す。フォークロアは、そのように「個人性」と「集合性」の両面で成り立っているように思いました。人が死ぬ時、そのフォークロアはすっと消えてしまうのではなく、エッセンスやスピリットとしてその場に残り続け、道具であり、建物であり、人の通ったところに経験として蓄積されるとしたら、それは道具や建物のフォークロアといえるのかもしれません。フォークロア・リスニングとは、大きな区分のエスノロジーに限らず、人・物・場所に内在する固有の記憶や気配への耳を差し出し、その音を一旦音楽の域から離すことで、楽器・空間・時間による独り語りの先を想像してみること。
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イースト・サセックスを拠点に活動する作曲家/エンジニア、PlinthことMichael Tanner(マイケル・タナー)によるサセックス・ワークス最終作は、2014年の春、キーが壊れた古いアコーディオンを携えてモーリングダウンの3つの丘を登り、コテージに泊まりながら丘ごとの頂上で録音した3つの即興演奏。「音楽」や「曲」ではなく「シンプルに風景と対話した記録」。古いアコーディオンは和音ボタンのみが生きていて、それも気まぐれに予想外の音を発したといい、グレインサックのような粗い触り心地のドローンが、時おり鳥や羊たちの鳴き声や飛行機の音と交わる。作者はこれまでも民間伝承や古い音楽機械をモチーフとしていますが、ロングフォームのサセックス・ワークスでは特にメランコリックな詩情や静かな祈りのようなアンビエンスが醸成されていて、フォークロアの両面(土地と個人)と音との関係を意識させられます。
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