2019年11月12日火曜日

[252.1] 月間サウンドステージ 心を癒すアンビエント・ミュージック




音楽現代別冊 月間サウンドステージ
1996年3月号

特集 アンビエント・ミュージック〜自然からのメッセージ
・自然音も聴けるアンビエントCDコレクション
・アーティストからのメッセージ〜FOAレコード
・やすらぎを求めて〜自然音CDコレクション
・心の奥底で木霊するアンビエントなリズムたち 吉村弘
ほか

平成8年3月30日発行
編集長 船木文宏
出版 株式会社芸術現代社

クラシック音楽専門誌「音楽現代」の別冊として刊行されていた月刊誌「サウンドステージ」。「情報選択時代の音楽オーディオ誌」と謳われるように、時代とともに多様化するオーディオ/ヴィジュアル機器と音楽ソフトに関する最新情報を発信する音楽総合誌でした。1996年3月号の特集は「心を癒すアンビエント・ミュージック」。80年代末から90年代にかけて、ハードさを志向するアンダーグラウンド・ダンス・ミュージックの反作用として生まれ、ともに発展を遂げてきたチルアウト〜アンビエント・ミュージック。本号が発行された90年代半ばは、ちょうどチルアウト・カルチャーを先導してきたプロデューサー達がアンビエント路線をやや離れて、エレクトロニック・ミュージックの新しいフォームに歩みを進めた時期。アンビエント・ミュージックは「聞き手が想像力で参加することができる抽象性でクリエイティヴなスピリチュアル・サウンド」として、ポップ・ミュージックと混交しながら、よりオーバーグラウンドなフィールドでの認知を広げていたのだろうと思います。この特集では、自然音を取り入れたニューエイジ色の濃いアンビエント作品のディスクガイド、ユーキャン内に設立された音楽レーベルFOA (FORCE OF AMBIENT) RECORDSの紹介、細野晴臣、ワールド・スタンダード、高橋鮎生、ドリーム・ドルフィンなどポップとアンビエントの両極を志向する所属アーティストからのメッセージ、橋本元司や吉村弘によるコラム、アンビエント作品やグッズを買うことができるショップ情報などを掲載。今読むと、マスとコアの間で揺れ動く当時のアンビエント・ミュージックと、それをめぐる動向や概観が感じ取れるような内容になっています。注目すべきは、日本のアンビエント史に輝く巨星にして、ほとんど交わることはなかったであろう2人の音楽家、吉村弘と細野晴臣が同じ紙面に寄稿していること。かたや音の美術〜環境デザインの先覚者、かたや俗世を離れてアンビエントたる仙境に身を置いた音楽王、という、双方異なる「アンビエント/環境音楽」を体現する2人。下の文章は、各々のコラムから特に印象的な部分を抜粋したものです。


「アンビエント感のもとになっているものは、やはり自然なリズム、自然音や地球の発信している様々な鼓動、宇宙からの波動、遠い記憶、民族の伝統によって育まれてきた風土性など失いかけているものの中に投影されることが多い。失ってからでは遅いし、そんな心の中の小さな波紋として、聴く人の心の中に広がっていくからであろう。私達は生活には便利になったが、アンビエント感の乏しい時代にいることをじわじわと感じ始めている。「アンビエント・ミュージック」は音の一ジャンルを形成するものではなく、アンビエント感のある音楽の総称としてあるべきであろう。」 - 吉村弘


「僕はここ数年、渚に立ってずっと海を見ていた。海は激しさと静けさをひとつのこととして感じさせてくれた。そこにはエゴも名もない太洋感覚があった。アンビエントとはそのような視点〜世界の観望から、日々成生と消滅をくりかえしてゆく音楽と思われる。僕の背後には陸が広がり、そこには多様なノイズが渦巻いている。地震が起こり津波がおし寄せると、海のスピリットが陸に影響を及ぼし、陸のアンビエントが生まれた。」 -細野晴臣